球場経営、リーグビジネス……楽天が変えたプロ野球の仕組みとは(4/6 ページ)

» 2011年09月16日 08時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

ここ10数年で大きく売り上げを伸ばしているメジャーリーグ

井上 次図はプロスポーツビジネスの規模です。2006年だと、日本のプロ野球の総収入は1100億円なのに対して、米国のメジャーリーグは為替レートを1ドル=123円とすると6200億円と5〜6倍になります。

プロスポーツビジネス規模(推定)

 今の時点でとらえると「そんなもんか」と思うかもしれないですが、歴史的に見ると、これはとんでもないという話になるんです。なぜなら、1ドル=80円で計算すると、1995年は日本のプロ野球の方が売り上げが多かったんです。この15年間でメジャーリーグは5〜6倍売り上げを伸ばしているのに、日本のプロ野球はほとんど横ばいだと言われています。

日米プロ野球のリーグおよびチームの総収益の推移(1ドル=80円で計算)

 いったいメジャーリーグは何をして、日本のプロ野球は何をしていなかったのか。非常にショックですよね。日本のふがいなさの一端を示しているのかもしれないですし、メジャーリーグのやり方がうまかっただけなのかもしれません。ただ、「こういう状況を座して見ていていいのか?」というのが、楽天やパリーグの球団の問題意識です。

リーグ事業に力を入れるメジャーリーグ

井上 なぜメジャーリーグは売り上げが伸びて、日本のプロ野球はいつまでたっても伸びないのか。

 日本のプロ野球ではリーグによる事業は、基本的にオールスターゲームと日本シリーズだけです。それ以外は、レギュラーシーズンもクライマックスシリーズも、ホーム球団にチケットや放映権、マーチャンダイズなど各種権利が帰属しています。各球団ばらばらにやる方針なので、強い読売巨人や阪神は売り上げがそれなりに上がり、弱いヤクルトや横浜は苦労するという構造になっています。

 一方、メジャーリーグはリーグによる事業がきちんとしています。各球団はチケットやローカルの放映権、ローカルスポンサーの収入は直接管理するのですが、それ以外は全部リーグに権利を渡していて、リーグがナショナルマーケットやインターナショナルマーケットでビジネス展開をして、その収入を各球団に分配しています。

 全体で5000億〜5500億円の収入のうち、各球団の収入は3500億〜4000億円、リーグ事業としてMLBプロパティ(MLBP)という会社が1000億円以上の売り上げをあげています。地上波やインターネットの放映権、リーグスポンサー収入、オールスターやワールドシリーズの興行収入はすべてMLBPが管理しています。放映権やマーチャンダイズ、スポンサービジネスでは30球団をきちんと取りまとめて売ると、非常に高い金額になります。しかしバラバラで売ると、大きく金額が落ちてしまいます。例えば地上波の放映権は年間800億円、リーグスポンサーは1社当たり年間8〜15億円です。パリーグもリーグスポンサーをとっていますが、そんな金額ではありません。

 また、2000年にMLBアドバンストメディアというオンラインビジネスの会社を作り、2001年に実質的にスタートしてその年は29億円の売り上げだったのですが、2010年には400億円となっています。オンラインビデオやオンラインチケット、インターネットでのスポンサー広告が伸びているのです。これらを各球団に分配しているという形になります。

 日本の球団はパリーグもセリーグもそれぞれの球団の収入がほとんどで、中央組織はコストになっており、中央組織からの分配金は基本的にほとんどありません。ところが米国の場合、収益力のある球団でも収入の15%程度がリーグから配分されるお金となります。収益力の弱いチーム、例えば売り上げ30位のフロリダ・マーリンズだと収入の70%近くがリーグから分配されるお金になっています。

メジャーリーグチームの収益構造

 すなわち、リーグがお金持ちの球団とそうでない球団との収入の再分配機能を果たしているのです。その結果として、地方でもプロ野球が成り立つし、戦力均衡を維持できる収入も入ってくるという構造が作られているのです。

なぜ日本はリーグ事業に力を入れられないのか

井上 「じゃあ、日本もやればいいじゃないか」という話になるわけですが、やれない理由がいくつかあります。

 その1つは、NPBという中央組織に事業を担当する部門がほとんどないということです。ただ、それは事業を担当する部門を作ればいいわけです。

 それ以外に何があるかというと、セリーグの球団の株主構成があります。セリーグ球団は例えば読売新聞と日本テレビは資本関係があります。すると、「ネット放送をすると、地上波放送に影響があるんじゃないか」という話になるんです。中日は親会社が中日新聞で系列テレビ局を持っており、ヤクルトはフジサンケイグループが出資していて放映権については独占的な権利を持っているというように、メディアの子会社、または関連会社としてセリーグの球団は構成されているので、フラットに12球団で新しいオンラインビジネスをしようという話には反対する球団が出てきます。

 MLBは数百人規模のビジネス部門を持っており、その辺を取りまとめてMLBPやMLBアドバンストメディアという会社を作っています。しかし、NPBは実質的にプロ野球球団の連絡機関に過ぎなくて、事業としては日本シリーズとオールスターゲームをやっているだけのような感じで、非常に違っているのです。

 また、メジャーリーグでは球団数を増やしていますが、なぜ拡大できるのか。ローカルエリアでは事業がなかなか成り立たないのですが、先ほど言った分配金制度を使ってリーグとしてローカルエリアの球団を支援しているほか、地方公共団体が地域振興のために球場を作って、無料に近い形で球団に貸し出す形で球団を呼んできていることもあります。

 ニューヨーク・ヤンキースやニューヨーク・メッツも球場を作ったのですが、球場そのものはヤンキースやメッツの費用で作って、それを証券化して金融機関に売却して資金調達をしているのですが、土地はニューヨーク市のものなんです。それをニューヨーク市は無料もしくは格安で貸していると言われています。そういう意味で、地方公共団体がプロ野球を非常に支援しているというのが日本と米国の大きな違いです。

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