球場経営、リーグビジネス……楽天が変えたプロ野球の仕組みとは(2/6 ページ)

» 2011年09月16日 08時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

球団と球場の一体型のビジネスモデル

井上 なぜそんな変なことが起こったのかというと、従来のプロ野球のビジネスモデルと楽天のビジネスモデルが大幅に違っていたからです。どこが違うかというと、「球団と球場の一体型の事業モデル」を確立したということにあります。

 私たちは参入前、いろいろ分析しました。その事業シミュレーションの中で分かったことは、「球団はもうからない。でも、球場はもうかる。」ということです。

 一例を挙げると、東京ドームでは広告看板が山ほど出ています。広告看板は読売巨人戦があるから出ているわけで、東京ドームが好きだから出しているわけではありません。東京ドームは広告看板によって100億円以上の収入を得ていますが、それはすべて会場を貸している東京ドームの収入になって、読売巨人軍には1銭も入らないんです。つまり、球団の価値が球場に移転しているんです。だから、「移転させずに、自分たちで球場も確保すればまったく違ったビジネスモデルができるのではないか」というのが私たちの参入時の仮説でした。

 なぜそういう仮説を立てたかというと、2004年に三木谷さんが個人的にサッカーチームのヴィッセル神戸を買ったんです。その時ショッキングなことがあったのです。

 サッカービジネスをしようとすると、お客さんにできるだけ快適な環境を提供したいと思います。おいしい食事を提供したい、いいシートに座らせてあげたい、せっかくだから広告看板を付けて収入も得たい……と最初は思っていたんです。

 ヴィッセル神戸の本拠地はホームズスタジアムという第三セクターのスタジアムです。第三セクターの側からすると、「いや、ヴィッセル神戸さん。あなたたちのサッカーの試合の日に、私たちはスタジアムを貸しているだけですよ。あなたたちはサッカーをする日に私たちのサッカー場を借りているだけなんだから、借りているだけの人が『売店をこうしろ』『シートをこうしろ』『看板出してくれ』なんてとんでもないじゃないか。サッカー場は私たちのものであって、ヴィッセル神戸さんのものではないですよ。あなたたちは使用料を払って、使っているだけじゃないですか」という話になったのです。

 ところが、お客さんの方から考えるとどうなるか。サッカーを見に来た時、スタジアムのレストランのメニューが高くておいしくないと、「ヴィッセル神戸の試合を見に行ったらさあ。あそこのレストランとんでもねえよ」という話になります。また、弁当を売ってあげようと思っても、スタジアムの人は「レストランの収入に影響するから、弁当なんか売ってはいけない」という話になる。そうしたらお客さんは「昼過ぎにやっているのに弁当くらい売れよ。ヴィッセル神戸ってとんでもねえ」と、スタジアムとサッカーチームが同じように見えてしまうわけです。そういうことがあったので、楽天野球団が仙台に進出する時に「あのヴィッセル神戸の問題は解決しなくてはいけない」と考えていました。

 楽天野球団は2004年11月に参入が認められたのですが、その時に「宮城県営球場はプロ野球仕様ではないから大改装しろ」と言われたんです。2005年3月までに改装しなくてはいけないので、すごいハンデだったんです。

 しかし、その改装しなくてはいけないというハンデを逆手にとって、球場使用料として年間5000万円を支払うから、自分たちで球場を全部立て替えるし、駐車場も自分たちで運営するし、練習場も将来作るしと、ハンデをメリットに変えようということで、球場のエリア全体を全部設計し直しました。自分たちがやりたいシーティング(座席構成)にして、VIPルームやレストランを作り、球場が小さいというハンデを解消しようと球場の外側も一体運用するということで外側の公園を子どもたちが遊ぶ遊園地みたいな形に変え売店などを設置していったわけです。

 後から進出し、宮城県で自分たちで球場を改修せざるを得ないというデメリットをメリットに変えて、球場と球団を一体運営することによってビジネスを大きく変えてきたのです。

楽天のビジネスモデルを他パリーグ球団でも

井上 次図が楽天野球団の売り上げのモデルです。最近はもう少し売り上げが増えていますが、NPBのような中央組織から入ってくる収入はほとんどなくて、広告やチケット、マーチャンダイズや飲食などは主として球場から入ってくるお金ですね。

楽天野球団の売り上げ(収入モデル)

 チケットや放映権の収入は球団から発生するお金ですが、チケット販売で一番重要なコツは高い席を作って販売することです。米国のヤンキースは、10%くらいの席で60%以上の収入を稼いでいるのではないかと言われています。つまり、高額の良い席をお金持ちや企業接待用に売り、そんなに良くはないけど安い席を子どもたちなど地域のファンに販売することで、みんなが野球ファンになっていく。「将来、お金持ちになったら、良い席を買おう」というモチベーションも付けられる構造になっています。

 楽天が新規参入して以降、パリーグが元気になってきました。楽天が初年度黒字化して、パリーグのほかの球団のオーナーは球団社長を呼びつけて、「お前ら、何やっているんだ」と怒ったわけです。パリーグ各球団はなぜ楽天野球団が黒字になったのかを調査し、楽天野球団も全部情報を開示して、球団と球場の一体運営の話、球場で稼いでいるという話をするわけです。

 元気になった球団で典型的なのはロッテです。ロッテは楽天野球団が進出する時期まで、売り上げは年間で20億円に届かないと言われていました。ところが今の売り上げは年間80億円くらいと言われています。

 楽天が入る前、ロッテは私たちがヴィッセル神戸で受けた仕打ちと同じ仕打ちを受けていました。第三セクターの球場はロッテに対して、野球の試合前後に球場外でイベントをすることを禁止していました。「なぜだ?」と聞くと、「あなたたちは球場を借りているだけで、球場の外は借りていないじゃないか」と言われる。

 でも、ファンのみなさんからすると、球場に来た時、球場の外でいろんなイベントがあったり、グッズを売ってもらったりするということは、すごくいいことだと思うんです。そこでロッテは指定管理者制度という制度を入れて、球場を運営するようになったことで、ファンサービスに努められるようになり、事業として成功していったということです。

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