「常に自分は正しく、相手が悪い」が招く結末とは吉田典史の時事日想(1/2 ページ)

» 2011年09月16日 08時00分 公開
[吉田典史,Business Media 誠]

著者プロフィール:吉田典史(よしだ・のりふみ)

1967年、岐阜県大垣市生まれ。2005年よりフリー。主に、経営、経済分野で取材・執筆・編集を続ける。雑誌では『人事マネジメント』(ビジネスパブリッシング社)や『週刊ダイヤモンド』(ダイヤモンド社)、インターネットではNBオンライン(日経BP社)やダイヤモンドオンライン(ダイヤモンド社)で執筆中。このほか日本マンパワーや専門学校で文章指導の講師を務める。

著書に『非正社員から正社員になる!』(光文社)、『年収1000万円!稼ぐ「ライター」の仕事術』(同文舘出版)、『あの日、「負け組社員」になった…他人事ではない“会社の落とし穴”の避け方・埋め方・逃れ方』(ダイヤモンド社)、『いますぐ「さすが」と言いなさい!』(ビジネス社)など。ブログ「吉田典史の編集部」、Twitterアカウント:@katigumi


 今回、私が最近会った2人の女性の話をもとに会社員の生き方を考えたい。2人の女性はAさんとBさんとしよう。

 Aさんは40代後半で、特に30代後半〜40代の女性から人気がある職業の“カリスマ”と言われる。この職業について具体的に書くことは特定できうるので避ける。

 一方のBさんは数カ月前にAさんの弟子になった。40代半ばで、以前はフリーの編集者をしていた。20代のころに結婚したが、夫と死別。その後、会社を辞めて、フリー編集者として仕事をしていた。だが、仕事に行き詰まり、本人いわく「ある日、吸い込まれるようにAさんの弟子になった」という。

 私がこの2人と接したのは、中堅の出版社から「Aさんを取材してほしい」という依頼があったからだ。Aさんがそこの雑誌の取材を受けることになったのだが、その際に「私が取材を受ける条件は、吉田氏がインタビュアーであること」と編集者に条件を付けた。それで、編集者から私へ依頼があった。私は、Aさんとは面識がない。

 私としてはありがたいことなのだが、Aさんと会うと、理解ができないことが多かった。まず、Bさんがその場に現れる。そして、「数年前に、吉田さんと会ったことがある」と言い始める。私は思い出せなかった。しばらく経ったのち、何となく思い起こした。

 Bさんとは、ある会合で名刺を交換した。その時、初対面でありながら彼女はこう話した。「出版業界は慢性的な不況。出版社の多くは、お金にルーズ。支払いがよく遅れる」「クライアントである出版社の編集者は仕事ができない」「私は未亡人」……。AさんはそんなBさんを「自らの弟子」として紹介し、すぐ横の椅子に座らせた。

 私がAさんに取材を始めると、かつてはフリーの編集者をしていたと話す。「お金の支払いにルーズな出版社に交渉をして……」などと、批判とも愚痴ともとれる内容だった。そして、「夫とは価値観の違いが大きく、別れた」と付け加える。

 AさんとBさんは似ていた。2人とも夫と別れている。Aさんは離婚、Bさんは死別。さらに取引先である出版社を批判する。もう1つの共通項があった。それは自分を責めないこと。例えば、ルーズな出版社と仕事をせざるを得ない状況を作ったのは自分であることや、自分の力がもっとあればきちんとした会社と仕事をすることができた、と振り返ることをしない。

 取材を終えようとすると、Aさんはこう言った。「私に子どもがいないのは、前世からの因縁。前世で私をうらんだ親子の霊がこの世に来て、私が離婚するようにさせた」。今度は、横にいたBさんが答える。「私は夫と死別し、未亡人になったり、仕事が行き詰まった。それも前世からの因縁」。私は、返答に困った。こういう話には関心がない。

 私はこの20年ほどでさまざまな取材をしてきたが、今回の取材は解せないものが多かった。その後、こういう職業に詳しい知人に聞くと、こう答えた。

 「その職業につく傾向があるのは、アラフォー(40代以上)の女性で『もっと自分は幸福になってしかるべき』と思い込む。だけど、いつまでも幸福にはなれない。その理由は自分にある。自分を変えない限り、幸福にはなれない。ところが、それを認めない。そして、前世などにその理由を求める。絶対に自分は正しく、悪いのは相手と思い込む」

 2人の女性に接した限りでは、この指摘は言い得て妙な気がした。ただ、私が問題視するのは、その職業ではなく、彼女たちの生き方とか考え方である。きっとこの知人もそれが言いたいのだろう。そもそも「常に自分は正しく、常に相手が悪い」ということがありうるのだろうか。

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