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» 2011年09月15日 08時00分 UPDATE

郷好文の“うふふ”マーケティング:日本人製作のIKEAのベストセラーチェア『ポエング』、“清貧”デザインの秘密 (1/3)

IKEAで30年以上世界的なベストセラーとして君臨してきた『POANG/ポエング』。そのデザインをした中村昇氏のセミナーに出席した筆者は、日本製品に何が足りないか気付いたという。

[郷好文,Business Media 誠]

著者プロフィール:郷 好文

マーケティング・リサーチ、新規事業の開発、海外駐在を経て、1999年〜2008年までコンサルティングファームにてマネジメント・コンサルタントとして、事業戦略・マーケティング戦略など多数のプロジェクトに参画。2009年9月、株式会社ことばを設立。12月、異能のコンサルティング集団アンサー・コンサルティングLLPの設立とともに参画。コンサルタント・エッセイストの仕事に加えて、クリエイター支援・創作品販売の「utte(うって)」事業、ギャラリー&スペース「アートマルシェ神田」の運営に携わる。著書に『顧客視点の成長シナリオ』(ファーストプレス)など、印刷業界誌『プリバリ[印]』で「マーケティング価値校」を連載中。中小企業診断士。ブログ「cotoba


 30年以上にわたる世界的なベストセラーチェアの秘密は何だろう。

 1976年に商品名『POEM/ポエーム』で発売され、1978年に『POANG/ポエング』となって今に続くベストセラー。1955年から独自製品の開発を始めたIKEA半世紀の歴史の中でも、『BILLY/ビリー』(書棚)や『KLIPPAN/クリッパン(ソファ)』と並ぶ代表的な製品である。そのデザインをしたのは日本人初のIKEAデザイナー中村昇(なかむらのぼる)さん。1973年から1978年まで、IKEAでの6年3カ月に110作品をデザイン、そのうち29作品が製品化された。

ah_poangamuchea19488PE104775S4.jpg 『POANG/ポエング』

 「打率では3割に満たない打者でした」

 IKEAが各店で開催したスペシャルセミナーで、謙そんして控えめに語る中村さん。スウェーデンはもとより、欧州でポエングを知らない人はいない。高周波で急速硬化させた積層合板を湾曲させて組み上げたミニマルな構造。脚部は体重で適度に沈みこみ、クッションはシンプルにヘッドでの一点留め。カバーは取り外して洗濯できる直線裁ち。ロッキングチェアやラウンジチェアなど多くのバリエーションがある。最安値品は7900円から4990円に値下げされた。

ah_poeng01.jpg 中村昇さんのセミナー

 「もともとのコンセプトは揺りかごでした。暖炉の前でおばあちゃんが揺らすロッキングチェアがありますね。その快適でリッチな印象を、ほかの椅子で表現できればいいなと考えました」

 万人にフィットする椅子作りは難しい。年齢差、性別差、幼児からおばあちゃんまでの体型差がある。日本人にはヘッドレストでも、大きなスウェーデン人には“ショルダーレスト”になってしまう。さらに腰痛持ちなど体調差もある。どこに標準を求めるのか? シンプルにそぎ落としたフォルムは、その尽きない探究心の結晶である。

 スウェーデンから帰国して以来、北海道で家具作りをしている中村さん、話しぶりから見えたのはまっすぐ、信念、謙そん。日本人がかつて持っていた美質だった。

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