カーシェアリングと自動車販売の意外な関係――MINI + タイムズプラスは、なぜ実現したのか神尾寿の時事日想・特別編(2/4 ページ)

» 2011年08月31日 10時08分 公開
[神尾寿,Business Media 誠]

カーシェアリングはタッチポイントを拡大する

 パーク24のカーシェアリングサービス「タイムズプラス」は、この1年余りで急速な成長を遂げた。全国にある貸出ステーション数は約2000カ所、車両数は2500台以上まで成長、この"使い勝手のよさ"が評価されて、ユーザー数は5万7000人を突破している。

 そしてタイムズプラスがユニークなのは、貸出用の車両としてコストパフォーマンスの高い国産コンパクトカーだけでなく、輸入車も多く取りそろえていることだ。その中でも、BMWグループとの提携により、MINIの配備数はかなり多い。大都市を中心に約100台が用意されており、これは日本のカーシェアリングサービスでは異例のことだ。

東京・大阪エリアを中心に、パーク24では約100台のMINIを配備。また、それに比べると数は少ないが、BMWも用意されている

 このMINIの大量導入・大量配備はパーク24側からBMWに持ちかけたものだが、BMWもそれを積極的に受け入れた。導入計画に先駆けて、両社はタイムズプラスで使用する車載器インターフェースの共同開発まで行ったという。

 「"クルマ利用"のカーシェアリングが普及することは、"クルマ販売"を主軸とした今の自動車ビジネスにとってマイナスになる」――日本の自動車業界ではこのような見方をする関係者が多い。BMWではそのような懸念はなかったのだろうか。

 「確かにそういった意見もあるようですが、BMWグループではむしろ逆だと考えています。(日本市場では)消費者のクルマ離れ・ディーラー離れという現象があるわけですけれども、そのような中で、カーシェアリングを通じてBMW/MINIに乗っていただく、ブランド体験をしていただくということが重要なのです」(佐藤氏)

 BMW/MINIでは、企業文化として「駆けぬける歓び (Freude am Fahren)」を掲げている。"走らせて楽しいクルマ"がBMWとMINIの真骨頂であるわけだが、当然ながらこれは、自分でハンドルを握って乗ってみないと分からないものだ。そのためBMW/MINIのディーラーでは様々な試乗プログラムや試乗キャンペーンを用意し、カタログを見せるよりも「まずは乗ってもらう」ことを重視しているのだが、日本市場では、このブランド体験をしてもらうこと自体が難しくなっているという。

 「これはカーシェリングとのコラボレーションをして改めて分かったことなのですけれども、今は『ディーラーの敷居が高くなっている』のです。我々は多くのお客様に訪れていただき、BMWやMINIに気軽に乗っていただきたいのですが、この『ディーラーを訪れる』ことに気後れを感じている方が少なくない。ディーラーでセールススタッフと話しをして、試乗をしてアンケートに答える、といったことが、おっくうに感じられてしまうのですね。

 一方のカーシェアリングは、会員の方が無人の貸出ステーションから、いつでも好きな時間に借りて好きなように乗れます。ディーラーの煩わしさがなく、お客様が自分の好きなように乗れるわけです。BMW/MINIのブランド体験をしていただくにあたり、とてもハードルが低い。ディーラーから足が遠のいてしまっている方々に対して、新たなブランド体験の接点になるわけです」(佐藤氏)

MINIのカーシェアリング公式サイト。ここではパーク24と連携し、「MINIが借りられるタイムズプラスの貸出ステーション」を探すことができる

 カーシェアリングでの利用はディーラーの試乗とは異なり、"買うことが前提"にはならない。そのためBMWやMINIといった輸入車も気負わず試すことができる。自動車メーカーにとって、ディーラーの試乗プログラムとは別の、"もう1つのブランド体験の入り口"として位置づけることができる。そして、実際にBMW/MINIに乗って気に入っていただいたお客様の一部が、購入を検討してディーラーを訪れればいい、というわけだ。

 「カーシェリングで利用しているうちにクルマ購入に至る、というケースはすでに出始めています。例えば(販売ディーラーの)MINI六本木では、タイムズプラスとの共同キャンペーンによって、2人のお客様にMINIをご購入いただけました。そのお客様からは、『カーシェアリングで乗っているうちに、自分のクルマとして欲しくなってしまった』という声をいただいています」(佐藤氏)

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.