ドイツ生まれの炭酸水は日本市場を制するか?――ゲロルシュタイナーの機会と課題それゆけ! カナモリさん(1/2 ページ)

» 2011年08月31日 08時00分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]

それゆけ! カナモリさんとは?

グロービスで受講生に愛のムチをふるうマーケティング講師、金森努氏が森羅万象を切るコラム。街歩きや膨大な数の雑誌、書籍などから発掘したニュースを、経営理論と豊富な引き出しでひも解き、人情と感性で味付けする。そんな“金森ワールド”をご堪能下さい。

※本記事は、GLOBIS.JPにおいて、2011年8月26日に掲載されたものです。金森氏の最新の記事はGLOBIS.JPで読むことができます。


 「ゲロルシュタイナー」(GEROLSTEINER)は、100年の歴史を持つドイツナンバー1の天然炭酸水。強い炭酸性を持ち、しかも、カルシウム、マグネシウムといったミネラル類を豊富に含んでいる。ユニークな特性を持ち、私自身ヘビーユーザーでもある商品だが、拡販においては悩みもあるらしい。日本国内での販売を手がけるサッポロ飲料にお邪魔してみた。

導入当初は、チャネル確保に苦慮

 「この商品の取り扱いを決めたのは、ほとんど勘でしたね」と、2004年当時を振り返るのは、同社ブランド戦略室長の古林秀彦氏。ドイツナンバー1のナショナルブランドであり、海外展開の実績もある。だが、日本市場にはまだ並行輸入も含めて入ってきていないという希少性も魅力だった。当時日本はミネラルウォーターの成長期。その中で、ただのミネラルウオーターではなく、「次は炭酸水のブームが来る!」と直感が働いたという。

 とはいえ、その直感の正しさが立証されるまでには、相応の歳月を要した。炭酸水という商材自体の認知が低く、チャネルの確保に地道な交渉を要したためである。

 2004年の日本市場への導入時は、料飲店など外食での利用を視野に、まずはガラスびん入りの1リットルと330ミリリットルでスタート。その後、顧客が日常の中でより気軽に手に取れる形態として、500ミリリットルペットボトルのタイプを2007年3月に首都圏のコンビニエンスストアに配架、翌2008年5月に1リットルペットボトルが量販店に並ぶ運びとなった。「ドイツ本国や欧州、北米で流通しているのはガラスびん。ペリエ、サンペレグリノなど日本国内で先行していた炭酸ミネラルウォーターもガラスびんでの流通であったため、ペットボトルでの展開はチャネル拡大に奏功すると考えた」(古林氏)ことが効いた。

 その後、さらなる販路拡充のため自動販売機への投入を検討したが、「ドイツ側に日本の自販機に合うサイズのペットボトルを作ってもらうのが、大変だった」と古林氏。ゲロルシュタイナーは、<購買物流>→<製造>→<出荷物流>→<営業・販売>というバリューチェーンのうち、<購買物流>→<製造>まではドイツで行うことが前提の商品である。「官報に掲載された特定水源より採水された地下水で、源泉から直接採取され、そのままボトリングされたもののみを『ナチュラルミネラルウオーター』と呼称できるとEUにより定義されている」(古林氏)ためだ。

 従って、何とかしてドイツで日本用のパッケージを作ってもらわなければならないわけだが、ドイツ側からすれば、「どれほどの規模のなるかも分からない日本市場だけに特化して新しいパッケージの製品を作る必要性は感じられない」というのが正直なところだったのだろう。結局、約2年後となる2010年にようやく自動販売機に収納できるサイズのペットボトルが開発され、全チャネル展開が完了した。

割り材→直接飲用という消費者の変化が追い風に

 ただ、古林氏らの「次は炭酸水が来る!」との直感は的中した。通常のミネラルウオーターと比べると市場規模はまだ5%程度と小さいものの、とりわけペットボトルでの展開を始めた効果は大きく、2007年の投入以来2010年までにゲロルシュタイナーは250%の急成長を遂げることとなった。この期間、日本のミネラルウオーター市場では輸送中のエネルギーロスが問題とされる「フードマイレージ」が注目され、輸入ブランドのシェアが低下していたにもかかわらずである。

 同商品の「天然炭酸水という特性と、同一カテゴリーの輸入ブランドがガラスびん入りなのに対し、ペットボトル入りで扱いやすく、加えて150円(税別)という手ごろな価格が消費者の支持を得た」と古林氏は説明する。成長をさらに確固たるものとするため、2009年には俳優・城田優を起用したテレビCMも投下しプロモーションも強化した。

 また2009年ごろを境に、日本市場では炭酸水の用いられ方に変化が現れていた。天然由来か否かは別として、従来、多くの炭酸水はカクテルやチューハイ、ハイボールなどを作るための、アルコールの“割り材”として用いられていた。それをストレートで飲用する消費者が増えてきたのだ。

 では、この変化はなぜ起こり得たのか。「ビール会社のグループ企業にいながら、こんなコトを言うのも変な話なのですが……」と前置きし、古林氏は自身の仮説を説明してくれた。

 「炭酸水という商品の物性的な価値を突き詰めていけば『のどごし』です。つまり、ビール系飲料に消費者が求めるものの大きな要素と同じ。折しも市場はビール系飲料離れが進んでいる。また、2006〜2007年にかけては『ゼロカロリー※炭酸飲料ブーム』がありましたが、それもすでに一巡しています。ビールや炭酸飲料からさまざまな要素を取り去ってみると、最後には『のどごし』が残る。それを直接的に求める層が、炭酸水のストレート飲用をしているのではないかと考えられるのです」

※ゼロカロリー……栄養表示基準では100ミリリットル当たり5キロカロリー以下だと、ゼロカロリーと表示できる。

 すべてのビール系飲料や炭酸飲料ユーザーが「のどごし」だけを求めているとは限らないが、そうしたセグメントが存在するのも確かだろう。商品を手に入れることによって実現したい「中核的価値」を「のどごし」と考えると、それがどのように実現できるのかという「実体価値」はどうだろうか。ビール系飲料なら「ほどよい酔い心地」、炭酸飲料なら「爽快感」をもって実現できることが価値だ。さらに、中核的価値の実現に直接影響はないが、製品の魅力を高める要素である「付随機能」は、ビール系飲料なら「低カロリー」や「糖質ゼロ」、炭酸飲料なら「カロリーゼロ」がそれにあたる。

 ビールの実体価値である「ほどよい酔い心地」はもはや不要として、アルコールゼロのビール系飲料を常用する人も増えてきた。そうした消費者ニーズの変化の中で、ゲロルシュタイナーは「のどごし特化飲料」というユニークなポジションが取れるのではないかと古林氏らは考えているという。

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