SNSを前提としないソーシャルゲームは作れるか、“分散型”の可能性を探る野島美保の“仮想世界”のビジネスデザイン(2/2 ページ)

» 2011年08月26日 08時00分 公開
[野島美保Business Media 誠]
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分散型ソーシャルゲームのビジョン

 分散的なソーシャルゲームの可能性について、おぼろげながらも6年前から考えていた。2005年から2007年にかけて、筆者はMMOユーザー向けのSNSの顧問をしていた。そのサイト上で、簡単なフラッシュやブログパーツのようなものを制作して公開できる「コンテンツマーケット(仮)」を展開したいと提案した。

 「フラッシュのパズルゲームのようなものに、来訪した友達の足跡やショートメッセージが反映されるような、ブログペットのような機能をつけたミニゲームを作りたい。ミニゲームは各ユーザーがSNSやブログに付けて、友達とゆるくつながりながら遊ぶ。ゆくゆくはこうしたものを、ユーザーがつくってアップできるマーケットを作りたい」

 頭に浮かぶかすかな映像をたぐりよせて、それに言葉をのせると、こんな説明になった。ソーシャルゲームが花盛りとなった今から振り返ると、このビジョンはあまりに貧相だ。しかも当時はソーシャルゲームという考え方もなく、開発者と話をしてもこの発想を共有することが、どうしてもできなかった。筆者が具体化の方法も技術的な可能性についても無知だったために、細部を詰めることができなかったからである。自分自身でコードを書ければ、状況は変わったのだろうか。プログラミングの専門学校に通おうかと悩んだが、昼間には大学の仕事があって時間の余裕がなく、また初心者から始めてどうにかなるレベルではないと考え、断念した。結局、何の形にすることもできず、数年後にはSNS自体も閉じてしまった。

 ゲーム市場がスマートフォンに移りつつある最近になって、このときのビジョンがふと思い出された。「ソーシャルゲームはまだ完成していない。Facebookがまだ実現していない世界がある」と思った。SNSという場に固定せずに友達同士をゆるくつなぐ、分散性がまだ実装されていないのだ。

ゆるい協力パズルゲームの例

 6年前に筆者が想定していたのは、フラッシュのパズルを友達に順に回しながら協力してプレイする、リレーのようなゲームである。例えば、ルービックキューブのようなパズルを、一面を解いてから次の人に渡す。古典の遊びで言えば、あやとりをイメージしてもよい。自分では解けなくてもほかの仲間が助けてくれる、パス・トレード機能もありだ。

 そういうリレーを繰り返して、自分のところに戻ってきた時には、最初に予想していなかった形に発展している。自分が想像していたのとは違う展開というギャップが、友人とのプレイで現れるというのが、基本コンセプトである。これをSNSサイトだけでなくブログなど、リレーをつなげることができるならばどこでも分散的に配置したいと考えていた。その方が、多くの人の手にわたり、自分のところに戻ってきた時の意外性が増すからである。

 もう少し分かりやすい例として、鉄道ゲームに例えて説明しよう。友人たちと共同で1つの鉄道模型ジオラマを作るゲームである。自分のページに表示されるのは、線路の一部であり、インバイトした友人にリレーでつなげていく。レベルやゲームマネーがあれば、駅舎を作ったりして装飾できる。列車は、定期的に自分のページに走ってやってくる。ちょうど列車が来た時に自分や友人のページにアクセスできればポイントがもらえる、という遊びがあってもよい。

 このゲームのポイントは、部分と全体の見せ方である。各ユーザーのページには自分の敷地しか見えないが、本サイトに行くとジオラマ全体が見られる。部分と全体に表示上のギャップを付けるのである。日中は携帯やスマートフォンで自分のページを確認するだけで、全体像は想像の中である。帰宅後にPC本サイトにアクセスすると、壮大な全体像が見られる。「全体はいったいどうなっているのか」と想像する楽しさのためにも、1つのSNSに囲うのではなくプラットフォーム横断的にユーザーサイトを分散させたい。分散的であればあるほど、個々人の期待を良い意味で裏切る全体を演出できる。

 部分と全体の表示というポイントは、ソーシャルグラフにも当てはまる。現行のソーシャルゲームは、自分の直接の友人しか表示されない。鉄道ジオラマゲームの場合、個人ページでは同様に自分と自分の友人しか見られないものの、友人のそのまた友人という形で線路は友人関係をたどって伸びていく。本サイトでジオラマ全体を確認すると、友人の友人とそのまた友人という「親近感がありつつ新鮮な」友人関係から構成されていることが分かる。いわば、ソーシャルグラフが鉄道路線という形で可視化されるのである。

 現行のソーシャルゲームでは直接インバイトできる友人の数によって、優劣が決まってしまう。しかし、鉄道ゲームでは、友人の友人という広いくくりでの人間関係の大きさで、大きな路線が作れるか否かが決まる。あるいは小さい路線でもユーザーのアクティブ率が高い繁盛路線を持つことが有利になる仕様でもよい。すると路線同士の競争、つまりソーシャルグラフの構築競争、という新しいゲーム性がでてくる。そして、いくつかのソーシャルグラフを持つ人は、複数の路線を持つ乗換駅として重宝されるだろう。

 ソーシャルゲームは既存のSNSの人間関係にぶらさがるだけでなく、逆にこうしてソーシャルグラフに新しい息吹を吹き込むこともできるだろう。そのためにも、URLやデバイスを超えて、仮想的なソーシャルグラフの上にゲームを展開するという新しい考え方が必要である。字数が詰まってきたので、この点については過去の記事を参照されたい(「ゲームプラットフォームの未来、『セルフィちゃんねる』の挑戦」)。

野島美保(のじま・みほ)

成蹊大学経済学部教授。専門は経営情報論。1995年に東京大学経済学部卒業後、監査法人勤務を経て、東京大学大学院経済学研究科に進学。Webサービスの萌芽期にあたる院生時代、EC研究をするかたわら、夜間はオンラインゲーム世界に住みこみ、研究室の床で寝袋生活を送る。ゲーム廃人と言われたので、あくまで研究をしているフリをするため、ゲームビジネス研究を始めるも、今ではこちらが本業となり、オンラインゲームや仮想世界など、最先端のEビジネスを論じている。しかし、論文を書く前にいちいちゲームをするので、執筆が遅くなるのが難点。著書に『人はなぜ形のないものを買うのか 仮想世界のビジネスモデル』(NTT出版)。

公式Webサイト:Nojima's Web site


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