米国債格下げで金利は上昇する? いや、そんなに単純じゃない藤田正美の時事日想(2/2 ページ)

» 2011年08月15日 08時00分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]
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我々は債券について多くを知っているわけではない

 日本が特異なわけでもない。スイスでは国債利回りがゼロに近づいているし、台湾やシンガポールも後に続いている。これらの国の経常収支は黒字であり、自分の国の借金を自分たちで賄うことができているのだ。しかし、米国や英国のように消費大国ですら、国債市場の「自警団」が馬に鞍を置き、市場の守備に出かけているようだ。

 経験豊かな投資家は、FRB(米連邦準備理事会)の国債を大量に買い入れた量的緩和第2弾(QE2)が終われば、国債相場は急落すると読んでいた。しかし実際には、国債は値上がりし、利回りは記録的な低水準となった。S&Pの警告にもかかわらず、米政府は最も有利な条件で借り入れをすることが可能となっている。

 なぜこんなことが起こるのか。ハーバード大学のケネス・ロゴフ教授は、国の債務がGDPの90%を超えたら深刻な経済問題が起こるとしていた。政治家は「だから財政健全化が必要だ」と主張してきた。しかしOECD加盟国の中で、借り入れコストが高くなって苦しんでいる国はない。ギリシャやポルトガルなどいわゆる「ユーロ周辺国」の危機は、本当のリスクを見失ってしまうことを示している。それは債券市場が示唆しているように、成長力が弱まると債務を嫌って借金を返済するようになり、その結果、さらに成長力が弱まるというリスクである。

 日本はバブルが弾けてからというもの、民間部門は財務体質の改善という名の借金返済に走った。そして金融機関に戻ってきたお金には新たな行き先が必要となった。それが国債である。預金が急増し、それに見合う形で国の借金が急増した。その間を結んだ水路が債券市場である。

 日本の経験から得られる教訓は、債務のダイナミクスについてわれわれは自分で思っているほど多くのことを知っているわけではないということだ。国の借金がGDPに比べてあるレベルになると自動的に財政危機に陥るわけではない。そしてバブルがはじければ、民間企業や個人は借金の返済に走り、巨額のお金が金融機関に戻ってくる。その意味では、公的債務を積み上げないためには、何よりもまずバブルを引き起こさないことなのである。

 以上がタスカ氏の議論である。人とは違った見方をするという意味で、タスカ氏の観察眼は鋭く、面白い。ただ気を付けなければいけないのは、そうは言っても日本政府がいつまでも借金を続けられるわけではないということだ。どこかでおカネが足りなくなり、国債の金利を引き上げざるをえなくなる。問題は、その日が来てから対策を練っても間に合わないということだ。

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