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» 2011年08月15日 08時00分 UPDATE

藤田正美の時事日想:米国債格下げで金利は上昇する? いや、そんなに単純じゃない (1/2)

米国債がトリプルAの格付けから滑り落ちたことから、その先行きが危ぶまれている。しかし、英紙フィナンシャルタイムズでピーター・タスカ氏は、国債市場はそんなに単純な動きをしないと主張する。

[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 ドルの格下げ、ユーロ不安、世界的な株の乱高下、そして日本人にとっては「?」だらけの円高。金融の世界には常識というものがないのか、それとも金融の常識は世界の非常識なのか。

 英紙フィナンシャルタイムズにピーター・タスカ氏が興味深いコラムを書いている。題して「格付け会社のからかう方法」。

 米国がトリプルAの格付けから滑り落ちて、世界は大騒ぎなのだが、日本の国債がトリプルAを失ったのは2002年だ。そして今年、格付け会社S&P(スタンダード&プアーズ)は日本国債をさらにダブルAマイナスに格下げした。しかしその結果はどうだったか。先週の大混乱の最中、日本の10年国債の利回りは1%をやや下回る水準に低下したのである。古典であるシドニー・ホーマーの『金利の歴史』によれば、この水準は有史以来の低金利だ。

 これを「異常」と呼ぶことはできない。この10年というもの、日本の国債市場は格付け会社のみならず、学者やカラ売りの仕掛け人、財政規律こそ徳性であると考えている政治家や官僚を、ことごとくバカにしてきた。彼らはみな、際限のない国債の発行は日本の財政を地獄に突き落とすものだと主張しているのである。

 その代表的存在である与謝野馨・経済財政政策担当大臣は同紙のインタビューで「日本は悪夢に直面している」と警告した。確かに数字を見れば、この主張が正しいように見える。日本の累積債務は国内総生産をはるかに超えているし、基礎的財政収支が黒字になる見通しもない。しかし市場のメッセージは全く違うのである。日本国債は多すぎるのではなく、実際にはまだまだ足りないというのだ。

 つまり市場と一般常識とは住んでいる“惑星”が違うのである。最近まではこんな状態は日本だけのものだったが、今ではこの意味するところを無視することはできない。OECD(経済協力開発機構)で、公的債務は最もホットな話題だ。そして日本のこの逆説的な現象を説明できなければ、公的債務が持続可能であるという主張も人を説得することはできない。

 市場が間違っているとか、不正に操作されていると言うこともできるが、その可能性は実際には小さい。日本の国債市場は世界で2番目の規模を有する。1990年代の後半から日本の国債市場は国債バブルとは違う安定性を保っている。利回りは1%と2%の間で動いてきたのだ。日本の財務官僚はもちろん、誰もこの規模を操作できるだけの資金を集めることはできない。

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