岐路に立つユーロ――存続派の声を紹介しよう藤田正美の時事日想(2/3 ページ)

» 2011年08月08日 08時00分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

フェルホフスッタト氏の主張

 かつて駐日ベルギー大使に取材したことがある。「統一通貨によって自国の財政政策が制限されることに不満はないのか」と尋ねた。大使はこう答えた。「ベルギーは小さい国。統一通貨でなくてもドイツやフランスの政策に左右されるのだから同じことだ」。そうした意味ではベルギーの元首相がユーロ維持論を展開し、ドイツの論者がユーロ解体論を主張するのは、分かりやすい構図だと言えるかもしれない。以下、フェルホフスッタト氏の主張である。

 欧州諸国の経済はそれぞれ大きく違うため、同じ政策を受け入れることができない。だから統一通貨はうまくいかないと、ユーロを批判する人々は言う。同じ通貨政策を採用すれば、必然的に緊張が生まれ、やがては破局に至ると主張する。しかし、実際にはどの国家も最適な通貨を使っているわけではない。どの国にも多かれ少なかれ地域的な違いというものはある。同じ通貨を使用する地域は、経済的な理由よりも政治的な理由で境界線が引かれているものだ。

 歴史的に見れば、1つの方向に向かって動いている。中世には地元だけで通用する通貨から地域的な通貨へ発展した。19世紀には国家の通貨制度へと進んだ。そしてよりグローバルな通貨の必要性が21世紀の課題であることは明白である。よりグローバルな通貨とは、ドル、円、元そしてユーロだ。

 ユーロの崩壊(あるいは意図的な分解)は、弱い通貨の切り下げと相まって、欧州にとって大きな後退である。安定と低インフレを追求してきた欧州諸国は、ドイツマルクの陰に入ることを余儀なくされるかもしれない。他の諸国は、経済的なナショナリズム、保護主義への誘惑に駆られるだろう。そしてゆっくりと確実に、欧州は摩擦と対立の大陸へと戻っていく。

 さらにユーロ圏17カ国には3億人の消費者がいる。ユーロの崩壊あるいは分解は、この利点を損なうものだ。すべての指標によれば、経済規模、集団的に交渉するパワーにメリットがあることが明らかだというのに。通貨の主権は、相互依存が強まる世界では、消えゆくべき運命にある。

 こうした地政学的な見地は別にしても、ユーロの崩壊は欧州企業や市民にとって破壊的である。統一通貨によって民間企業における為替リスクがなくなった。より長期的に展望に基づいて投資や事業計画を練ることが可能になったのである。為替変動によって、輸出や海外投資の利益が失われる機会は、完全になくなった。

 もっとも統一通貨は利益ももたらすが、それに伴う義務もある。通貨同盟は、強力な統制と連帯がなければ機能しない。この1年半、ユーロが揺らいできたのは、強力な統制も連帯も欠けていたからである。

 統一通貨制度には、1つの通貨政策だけではなく、1つのあいまいさのない経済、財政政策が必要だ。さらに通貨同盟に加えて、経済・財政同盟、もっと言えば政治同盟も必要である。われわれは幻想を抱くべきではない。統一連邦こそユーロ圏諸国がひとつにまとまる道である。

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