ちょっと変えれば、もっと楽しい――IKEAが提案する“3畳”のカタチ郷好文の“うふふ”マーケティング(1/3 ページ)

» 2011年08月04日 08時00分 公開
[郷好文,Business Media 誠]

著者プロフィール:郷 好文

マーケティング・リサーチ、新規事業の開発、海外駐在を経て、1999年〜2008年までコンサルティングファームにてマネジメント・コンサルタントとして、事業戦略・マーケティング戦略など多数のプロジェクトに参画。2009年9月、株式会社ことばを設立。12月、異能のコンサルティング集団アンサー・コンサルティングLLPの設立とともに参画。コンサルタント・エッセイストの仕事に加えて、クリエイター支援・創作品販売の「utte(うって)」事業、ギャラリー&スペース「アートマルシェ神田」の運営に携わる。著書に『顧客視点の成長シナリオ』(ファーストプレス)など、印刷業界誌『プリバリ[印]』で「マーケティング価値校」を連載中。中小企業診断士。ブログ「cotoba


 “三畳一間”とはよく言ったもんだ。

 卓袱台(ちゃぶだい)に座布団1枚、畳にごろんとして電球を見つめ、天井の木目を数える。風呂はなし、トイレは共同。寝食も兼用なら、夢と現実も同居していた。公団住宅のLDKが流行する高度成長期以前、ニッポン人の最もシンプルな住まいだった。

 あれから約半世紀。果たして日本は住みやすくなっただろうか?

 答えは「inga」(スウェーデン語の「いいえ」)。家は広くなり、部屋は増えた。だがモノがあふれ、収拾がつかない。可処分所得ならぬ家の中の“可処分面積”はそれほど増えてない実感がある。暮らしを置き去りにした経済成長の因果応報というべきか。

 だが、IKEAは「狭くても大丈夫」とばかりに、「3畳エキシビション」を京都東寺で開催した(7月28日〜8月3日)。同社は日本進出時の5年前、神宮外苑前で「IKEA 4.5 MUSEUM in 青山」を開いた。あの時は4畳半だったが、今回は1畳半も狭くなった。なぜ3畳なの? どんな提案? ワケを探りに京都を訪れた。

IKEAが京都東寺で行った「3畳エキシビション」

ちょっと変えれば、もっと楽しい。

 「日本家屋は天井や壁、床などの制約が多い。夢もあればフラストレーションもある空間。IKEAはそれを学んできました」

 イケア・ジャパンCEOのミカエル・パルムクイストさんは、IKEAの成長戦略を語った。第一にストア改装。「こんな住まいが作れる!」というインスピレーションを強化するため、港北店と船橋店を改装。そして新店舗の開設(被災地需要を狙う仙台のミニストア、2012年予定の福岡新宮店、2015年ごろ予定の立川店)。140点に及ぶプライスダウンもある。

 次いでIKEAのインテリアデザイナー竹川倫恵子さんが、3畳エキシビションの経緯を語った。

 「こんな家に住みたいけれど、狭いのにモノが多くて、でも捨てられなくて。私たちはホームビジットで悩みを聞き、夢を聞きました。お金、スペース、面倒だとか、何かの理由であきらめていらっしゃる。スモールスペースは問題ですが、やっぱり家が世界で一番。それはちょっとしたアイデアでかないます」

 竹川さんは“モノにあふれた日本の部屋”を次々にスライドで映し出した。ああ! 私の執筆空間もそっくりだ。IKEAはそこを3畳としてとらえて、多用途で機能的な暮らしを提供する。2011年のテーマは「ちょっと変えれば、もっと楽しい」。

 IKEAが京都で日本文化とどう出会ったのか。東寺境内に展示していた12のルームコンセプトを巡ってみた。

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