誰のために報道しているのか 記事をパクる大手メディアよ相場英雄の時事日想(2/3 ページ)

» 2011年08月04日 08時00分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]

 震災後何度も足を運んだ宮城県の沿岸部でも筆者は同じよう出来事に直面した。同県のブロック紙・河北新報、あるいは地域紙の石巻日日新聞が報じた内容を、在京メディアがなぞっていた。岩手県でも同じようなことが頻繁に起こったことを知り、筆者はがくぜんとした。

 大手メディアのこうした行動については、早い段階からフリージャーナリストの烏賀陽弘道氏が指摘し、痛烈に批判している。詳細は同氏のリポートを参照してほしい(参照リンク)

 今回筆者が本稿を記したのは、岩手日報や河北新報が伝えた記事の中で、数多くの被災者が載っていた点だ。賢明な読者ならお気付きだろう。震災に接した被災者の多くが心に深い傷を負っている。地元紙が報じたことで、大手メディアが何度も彼らを気軽に取材し、それらしい紙面や番組を作ってしまったのだ。 

被災者の心をえぐるな

 筆者は当欄で『その報道は誰のため? 被災した子どもにマイクを向けるな』と題するコラムを記した。また震災報道に関わる大手メディアの姿勢を何度か批判してきた。

 津波被害をなんとか免れた景勝地や、高台の言い伝えを気軽に報じる場合と、無神経に被災者を取材するのは全く次元が違う心配りが必要だ。しかし、実態は、多くの大手メディアが土足で被災者の心の内側に入り込み、彼らの心をえぐっていたのだ。

 手元にある岩手日報の写真集をめくってみる。この中で、家族2人を失った山田町の父子が合掌する紙面がある。この父子については、民放が子供の密着リポートを行った。また、釜石市に関する記述の中では、避難生活の困窮から泣く泣く愛犬をNPOに託す老人の話がある。老人と愛犬のエピソードは、のちに民放の情報番組が“涙モノ”として放映した。

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