地震は怖い、だから私は地震を学ぶ――「地震」キュレーター 大木裕子新連載・突撃! となりの専門家(1/2 ページ)

» 2011年08月03日 10時15分 公開
[島影真奈美,Business Media 誠]
地震についての情報を広く発信するONETOPI「地震」。Twitterで @jishin_1topi をフォローするとリアルタイムで情報収集できるほか、スマートフォン用の専用アプリも利用できる

 3月11日に発生した東日本大震災以来、地震や津波についての情報を求める人が増えている。ネットを使って情報収集をする場合、問題になってくるのがその情報の正確さだ。特にTwitterなどでは、情報拡散の範囲が広くスピードが速い半面、デマが広がりやすいことも問題になっている。これまで以上に、情報の正確性が問われるようになってきているのだ。

 アイティメディアが運営する「ONETOPI」では、さまざまな分野に精通したキュレーターが、その領域の最新情報&重要トピックスをTwitterアカウントでつぶやいている。各ジャンルの専門家たちは、どのように情報を集め、発信しているのか。連載「突撃! となりの専門家」では、ONETOPIでさまざまな情報を発信しているキュレーターへのインタビューを掲載する。

 第1回はONETOPI「地震」のキュレーターを務める大木裕子さんにお話を伺った。大木さんは東京大学地震研究所出身、コンピューター雑誌などの編集者を経て、現在は中小企業診断士。2011年4月から、ONETOPIで地震についての情報を幅広く発信している。


デマに振り回される人々を見かねて、キュレーターに

Business Media 誠 大木さんがONETOPI「地震」のキュレーターになられたきっかけは?

ONETOPI「地震」キュレーター 大木裕子氏

大木裕子(以下、大木) 2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震直後に、たくさんのデマや流言が飛びかいましたよね。怪しげな地震情報がまことしやかに語られている様子を見聞きしていて、黙っていられなくなってしまったんです(笑)。

 最初は「Yahoo!知恵袋」で地震にまつわる質問に答えていたんですが、ネタのような投稿もあってどうも意思の疎通がうまくいかない。「せめて身の回りの人にだけでも」とFacebookに日々、信じるに足る地震情報を書いていたら、アイティメディアにいた知人から「ONETOPIで書いてみないか」と思いがけないお誘いをいただいたんです。

Facebookに書かれた大木氏の投稿。この投稿の1週間後、ONETOPI「地震」はスタートした。

Business Media 誠 地震直後は、情報がひどく錯綜していました。

大木 事実よりもデマのほうが広がりやすいという傾向を痛感しました。冷静に考えればおかしい情報でも、一瞬のインパクトの大きさに飛びついてしまう。いまだに間違った地震の知識をしたり顔で語ったり、何の根拠もない誤情報に振り回されている人が少なくありません。

Business Media 誠 大木さんは東京大学の地震研究所にいらしたそうですね。

大木 大学院博士課程の途中まで東大地震研にいて、その後、編集者として就職し、現在は中小企業診断士として働いています。

Business Media 誠 珍しい経歴ですね。

大木 もともとは研究職志望だったんですが、“小泉改革”で稼げない学術分野の淘汰が始まり、地球科学関連の研究所が統廃合され、就職先の選択肢が狭まりました。その上、大学院が合格者数を急に増やしたので、より優秀な人に研究を継続してもらいたい気持ちと、将来生活が立ち行かなくなる不安から、研究者への道を断念したんです。

Business Media 誠 当時はどのような研究をされていたのですか。

大木 「固体地球物理学」の1つの分野で、主に“重力”です。重力を道具として用いた地殻変動の研究をしていました。北海道の有珠山や鹿児島県の桜島、そして静岡県の御前崎などにも重力の観測にいきました。重力は場所によって異なり、こうしたデータを集積することは火山の噴火や地震の予測にも役に立つんです。

Business Media 誠 地震の予知というのはどの程度可能なのでしょうか。

大木 地震の「予測」は、ある程度可能です。ただし、それは何百年や何千年という単位の話で、皆さんが期待する「予知」とは違います。月単位や週単位でも予測するのは難しいし、まして「○月×日に△△町にマグニチュード□の地震が」という詳細な予知は現段階ではできないと考えていい。地震の予測は、100年単位、1000年単位であっても、凄まじい誤差が生じるものなんです。よく「地震は28日周期で起こる」といったような“日単位の周期説”を耳にしますが、ナンセンス極まりないですね。現在のように頻繁に地震があれば、日々何かしらの地震は起きますし。

Business Media 誠 デマや誤解、不確実な情報に振り回されないために、大木さんご自身はどうされていますか。

大木 やはり、その分野に詳しい人を知っておくことですね。「地震」に関して、私の場合は昔の研究仲間がフィルターの役目を果たしてくれます。地震研究は狭い世界なので、誰がどのような分野の研究をしているのかは大体把握できています。もし、知らない人がいたとしても、業界の第一線にいる人に聞けば、その研究者の特徴は分かりますから。

Business Media 誠 長年に渡って培ってきた業界内人脈があるからこそ、確度の高い情報を集めることができるわけですね。

大木 そうですね。一般の人よりは研究者寄りの考え方をしてしまうので、どうしてもスタンダードになった理論に基づいた情報発信になる傾向はあります。どんなに興味深くとも現時点でスタンダードではない「確度の低い」情報を紹介することはありません。

Business Media 誠 「確度」がひとつ大きな判断基準になる、と。

大木 テレビでよく研究者が「私の専門ではないのでお答えできません」と回答していますが、責任感からああいう発言がでるのだと思います。特に、地球科学分野の研究者は他の理工系研究者よりも、さらに純粋でまっすぐなように見えます。だから、自分が知らないことには答えない、とはっきり言うのだと思います。意地悪をしているわけではないということはぜひご理解いただきたいです。

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