ユーロが患う3つの病と、3つの処方せん藤田正美の時事日想(1/3 ページ)

» 2011年08月01日 08時00分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 英エコノミスト誌のWebサイトで面白いディベートをやっている(参照リンク)。テーマは統一通貨ユーロ。ギリシャやアイルランド、ポルトガルといった国が債務危機に陥る中で、もうユーロを維持するメリットはないのではないか、という議論だ。ユーロ解体に賛成する人々と反対する人々に分かれての議論は、ユーロの将来がどうなるのかということだけでなく、日本の円をどう考えればいいのかという点にも、参考になりそうだ。今回は、ユーロ解体賛成論者の意見を紹介する。

ユーロがもたらす弊害

統一通貨ユーロは、欧州に団結よりも対立をもたらすことが多くなった?

 ユーロ解体を主張するのは、やはりというべきか、ドイツのマンハイム大学ハンス・オラフ・ヘンケル教授だ。ヘンケル教授はIBMドイツ社長、IBMヨーロッパのCEO(最高経営責任者)などを歴任。ドイツの経済界のリーダーの1人である。

 当初はユーロを支持していたヘンケル教授は、そのことについて「生涯で最大の誤りだった」と述べている。その理由はいくつかある。長くなるが、ヘルケル教授の論点を紹介する。

 第1に、政治家はマーストリヒト条約に書いてあるあらゆる約束を破った。政治的な理由でギリシャをEUに加盟させたばかりでなく、加盟国は毎年の財政赤字をGNPの3%以内に抑えることという基本的原則を何度も無視している。本来ならこうした場合に適用されるはずの罰則も適用されたことはない。それに加えて、ギリシャ支援パッケージを決めた結果、本来の「支援しないというルール」はどこかにいってしまった。

 第2に、万人向けのサイズというのは結局、誰にも合わないサイズであることがはっきりした。統一通貨ユーロそのものがいま政治家が解決しようとしているさまざまな問題を引き起こしている。ドイツの非常に安い金利水準で借りることができたことで、ギリシャ政府は巨額の累積債務を抱えてしまった。スペインの中央銀行は、金利を引き上げることができず、不動産バブルが進行するのをただ見ていることしかできなかった。自国の通貨を切り下げるという手段がないために、欧州の南の諸国は、競争力を失ったのである。

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