JR福知山線脱線事故の日のJR西日本の対応に話を戻します。この日の9時過ぎに事故は起こっています。お昼にはJR西日本の経営者や部門長はこの事故のことを認識したでしょう。それなのに、当日の午後の接待ゴルフも、夕方の宴会も予定通り行われてしまったのです。
もちろん西日本といっても広いので、兵庫県以外のJR西日本管内では業務に直接の影響はなかったかもしれません。けれど私が驚くのは、この日、事故に直接関係のない部署の人も含め、JR西日本が「組織として」どのように対応すべきか、行動すべきかという、「万が一の時のマニュアル」が、この会社には何もなかった(あったとしてもまったく運用されていなかった)ということです。
昭和天皇崩御の日には日本中の組織が「その時」に備えていました。周到な準備をしていました。その一方で、日本を代表する鉄道会社が「大規模な脱線事故が起こった時」にまったく備えていなかったのではないか、と思えて驚いたのです。
それとも「大規模な脱線事故」など、あってはならないことであり、あり得ないことだから、「万が一」の時のために対応マニュアルを用意しておく必要などないと考えていたのでしょうか?
さらに驚いたのは、このことを責められたJR西日本の南谷昌二郎会長(当時)が「(宴会やゴルフは)残念で、やめてほしかった。申し訳なく思っています」と言ったことです。これだと「部下のミスを残念がっている」ように聞こえますが、実際には「有事に備える」のは経営者の仕事です。
JR西日本は従業員が30人しかいない会社ではありません。社員だけで約3万人いる組織です。大事故があった時、「今日は全社で特別緊急体制をとる!」という指示を出すのは経営者の仕事です。「3万人の社員がみんな自分で判断してくれると思ってました。残念です」と本気で言ってるのでしょうか? 3万人がそんなことを判断できる組織なら、そもそも経営者なんていりません。
また、マスコミはこの件を「組織風土の問題」と報じましたが、ちきりんはそれも違うと思っています。これはそんなフワフワしたものの責任ではなく、「有事の組織行動をすべて事前に考えておく」のは、明確に経営者の責任なんです。
東京電力の事故でもまったく同じことが言えると思います。そして今、ほかの電力会社の経営者にもこのことをしっかりと理解してほしいものです。
そんじゃーね。
兵庫県出身。バブル最盛期に証券会社で働く。米国の大学院への留学を経て外資系企業に勤務。2010年秋に退職し“働かない人生”を謳歌中。崩壊前のソビエト連邦など、これまでに約50カ国を旅している。2005年春から“おちゃらけ社会派”と称してブログを開始。著書に『ゆるく考えよう 人生を100倍ラクにする思考法』がある。Twitterアカウントは「@InsideCHIKIRIN」
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