“上司の犬”になる前に心得ておきたいこと吉田典史の時事日想(2/3 ページ)

» 2011年07月29日 08時00分 公開
[吉田典史,Business Media 誠]

上司は「利権」の中で生きている

 その人の発言の真意を探ろうとすると、いろいろなものが見えてくる。最近の例で言えば、30代の女性の税理士を取材した。彼女は、こう言った。「中小企業の社長さんはみんな勤勉」「大企業の社員よりも、中小企業の社員のほうが優秀」……。

 私はそれらが“嘘”とは言わないが、それに近いものがあると察知した。税理士の大多数は、社員数300人以下の中小企業をクライアントとしている。つまり、彼女が生活できるのは、中小企業の経営者たちの支えによるものだ。だから、中小企業を否定しない。むしろ、大企業を批判する。さほど知らないにも関わらず、「大企業のトップは、中小企業の社長さんよりも仕事をしない」と言う。そんな根拠はないはずなのだが……。

 この税理士は、ある意味で「利権」の中で生きている。発言に意図があることは仕方がない。要は、聞く側が「この人はスポンサーが中小企業だから、“中小企業の社長さん”と持ち上げるのだな」といった思いで接すればいいのである。

 これと同じことが、上司の発言を見抜く時にも言える。2で述べたように、上司も「利権」の中で生きている。例えば、私が30代前半に仕えた上司は、関連会社(子会社)で部長を数年務めて親会社に戻ってきた。

 何かあると、その子会社のことをひいきにしていた。そこで知り合った社員(子会社のプロパー社員)を持ち上げていた。私には、ほかの子会社のほうが優秀な社員が多いように見えた。同僚らも同じことを話していた。

 だが、上司はあくまでひいきにしていた。それもそのはずで、親会社を定年で辞めた後は、そこの会社で再雇用してもらうことを考えていたようだ。事実、今はそこに勤務している。これもとらえ方によっては「利権」と言えよう。

絶対に正しいは存在しない

 上司の考えであっても、3で取り上げたように「絶対に正しいは存在しない」のである。このことを心の片隅にとどめておくだけでも、心が安定してこないだろうか。理不尽なことを言われたとしても、「利権のもと、こう言っている。だから、これが絶対に正しいとは言えない」と思えばいい。実際、その通りであるケースがあるはずだ。

 ここまで来ると、4の「しょせん上司でしかない」と思うようにならないだろうか。

 30代半ばまでくらいの社員と話すと、「上司なんて……」と口にするのだが、そのほとんどが顔色をうかがっている。そのこと自体が、上司に振り回されている。それでは、心が安定しない。いい仕事など、できるわけがない。

 誤解なきように言えば、「しょせん上司でしかない」と考えるのは無礼な態度を取ることではない。一応は、あなたの人事権を握る上司だ。部下は常に気を遣うことが当たり前だろう。

 私が強調したいのは、30代半ばまでくらいは上司の言動に必要以上に気を使い、それでペースを崩したり、叱られると「自分はダメだ」と思い込んでいく人が目立つこと。私が会社を離れるころ、30代後半だったが、後輩の社員を見ると、その大半は上司の1つずつの言葉や態度に敏感に反応していた。その後、会社を離れ、フリーになった。取材先や取引先で知り合う30代半ばまでの社員の多くが、上司に振り回されているように見える。

 その思いは分かるが、そこから悪循環に陥る可能性がある。上司を気にするあまり、仕事をしていく上での「型」が崩れたり、仕事をする際のベースになるはずの、心の安定を失っていったりする。会社員はいきなり業績が下がることはない。まずはこのような意識や心のあり方が崩れていき、その後で上司などとの人間関係にきしみが生じて成績が悪くなるパターンが多い。

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