ライカからフロッピー、ゲームボーイまで……彼らが懐かしの製品を紙で再現するワケ郷好文の“うふふ”マーケティング(2/3 ページ)

» 2011年07月28日 08時00分 公開
[郷好文,Business Media 誠]

プロダクトに詰まる情景を呼び起こす

 数十時間を2分27秒に圧縮した制作風景の動画を見ると、道具はカッターとカッターマット、直線定規に三角定規、コンパスにペン、のりにテープくらい。素材は鮮やかな発色のネオンペーパー。小さな小さなパーツを作っては接着。くしゃみもできなかったはず。なぜこんなものを作ったのだろうか。

Back to Basics - Behind the scene from Zim and Zou on Vimeo.

 「それにはいくつか理由があります。まず歴史上の技術進化に賛辞を贈りたかったんです。速い技術進化の中で、日常生活から消えていくものがたくさんあります。今、私たちが使う製品のほとんどは数年で消えて、残るものは“残存種”となるわけです。死んでいったものに命を吹き込んで生き返らせたかったのです。ノスタルジーは、過去に存在したものの中に記憶として宿るものだから。

 そこで、こう問いかけてみたくなりました。“現代の進化”は私たちをどこに導いてくれるのだろうか?」

 Back to Basicsを、デュオの1人であるThibaultさんはこう説明する。記憶は出来事や体験、情景や風景とともにある。その中に登場する“モノ”、プロダクトが果たす役割は意外なほど大きい。目をつむって子ども時代の情景を思い出してみた。すると踏み台と一緒に動くミシン、2本のローラーで水分を絞る洗濯機が母とともに現れた。兄とがちゃがちゃ回して取れてしまったダイヤル式のチャンネルがあった。モノクロのプロダクトには昭和の情景が詰まっている。

 「紙を使ったのは、誰でも手にすることができるありふれた素材だから。オリジナル製品の固い素材と、紙の違いを見せたかったんです。ネオンペーパーの色は、1980年代にどこにでも見られた色です。一方、オリジナル製品の色は、黒や銀やグレイなど無彩色。消えていったプロダクトに命を吹き込むのがネオンペーパーの色なのです」

 精密な加工はプロダクトへのオマージュ。ヴィヴィッドな色は進化の果てに死んだプロダクトを蘇らせる媚薬。紙というありふれた素材は、作ろうと思えば誰でも作れるという招待状である。消費されて消えていくプロダクトを再現して、もう一度“自分のもの”にする。彼らが模型を作ったワケが見えてきた。さらにThibaultさんは言う。

 「工業製品をたった1つのハンドメイド品にする。それは単にユーザーとして製品を使うだけでなく、製品を道具として再認識するプロセスでもあります。今日、クラフトマンシップはとても重要です」

 「クラフトマンシップ」を直訳すれば「職人の技」である。いや職人とは限らない。誰もが持ちうる「手作りの技」でもある。彼のこの言葉から、先日参加したある製本ワークショップで、私も小さなクラフトマンシップをもらったことを思い出した。

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