人をつなげるだけではカネにならない――“個”で際立つソーシャル効果野島美保の“仮想世界”のビジネスデザイン(1/2 ページ)

» 2011年07月25日 08時00分 公開
[野島美保,Business Media 誠]

「野島美保の“仮想世界”のビジネスデザイン」とは?

ゲームは単なる娯楽という1ジャンルを超えて、今や私たちの生活全般に広がりつつある。このコラムでは、ソーシャルゲームや携帯電話のゲームアプリなど、すそ野が広がりつつあるゲームコンテンツのビジネスモデルについて、学術的な背景をもとに解説していく。


 ソーシャルメディアにソーシャルゲームと、人と人とが結び付く“ソーシャル”によって、新しいネットビジネスが生まれている。これまでのコンテンツにソーシャルをうまく融合させることで、消費行動に変革が起こり、既存市場を塗り替える新しい市場が誕生する。ソーシャル・ショッピング、ソーシャル・リーディング、ソーシャル・ラーニング、ソーシャル・ファッションなどは、今後期待される領域である。

 ユーザー同士をつなげることにはそれだけ大きな価値があるが、実はそれだけではマネタイズにならない。SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)やTwitterが単体では課金が難しいのはそのためだ。

 なぜソーシャルゲームではユーザー課金できたのか。「ゲームだから課金できた」とソーシャルゲームを特別視していては、今後広まるあらゆるコンテンツのソーシャル化に対応できないだろう。

 筆者が考えるソーシャルゲームの成功要因は、人と人との結び付きという拡張性に対して「個」を演出できたことにある。支払いという行動をユーザーに起こさせるためには、ユーザー1人1人が認識できる個別なものを用意しなければならない。拡張というソーシャルの価値を、ユーザーが私有できる個別なものに凝縮する必要がある。

 ソーシャルゲームで有料販売される仮想アイテムには、2つの意味がある。ユーザーの個人を示す分身としての意味と、ゲーム内での私有財産としての意味である。そして、双方に共通するのが、仮想空間における個の演出である。

アバターアイテムとソーシャルの関係

 第一に、仮想アイテムは仮想空間において自分自身を表すものである。仮想世界の人格はアバター(分身)と呼ばれ、それに着せる服(アバターアイテム)が1つ数百円で販売される。そのため、仮想アイテムというと、人に見せるための個性発揮のアイテムというイメージが強いが、その本質は着せ替え人形にあるわけではない。

 服のバラエティを増やしさえすれば良い、あるいは派手なグラフィックならば売り上げが上がると考えるのは表層的な分析である。同様に、コミュニケーション・ツールをWebサイトに取り込みさえすれば交流が活発になるという考えも安直である。

 アバターは単体で売れるわけではない。他人がいるからこそ自己定義が必要となり、他人の視線があるからこそ個性を発揮したくなる。他人の存在や視線というソーシャルの設計と、個の演出であるアバターとはバラバラに考えてはならないのである。

 ソーシャルは他人との交流による世界の広がりを提供するが、交流の前提として、個の確立が必要である。他人と自分とが違う存在であると認識されなければ、対話は成立しない。現実世界では1人1人が物理的に異なる身体を持つので、「他人と自分は違う」という認識が自然とできる。しかし、仮想世界では自分自身という個を定義し、それにハンドル名を与えたりアバターで可視化しなければならない。

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