DVDだけではないビジネスを模索したい――フジ・ノイタミナプロデューサーが語るアニメの今(4/6 ページ)

» 2011年07月20日 08時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

クリエイターが次につながるものをやりたい

サンキュータツオ ではどうやって作品を売っていくかという話になっていくわけですが、今はどうなんですか。視聴率をとる番組を作っているのか、DVDを売る番組を作っているのか、それともブランド力を付けているところなのか。

山本 その全部なのですが、僕としてはノイタミナというブランドを一番大事にしたいんですよ。でも、それは僕というノイタミナを長くやっている人間の主張であって、1人1人のクリエイターは「いや、そんなことより俺は当てたいんだ。そうしないと次の仕事に関わるんだ」という気持ちがもちろんありますし、ビデオメーカーもそうでしょう。タイアップしているミュージシャンも、「ブランドもいいけど、CDは売れるの? まず番組をヒットさせてよ」という話になります。

 ノイタミナでも昔はグレーゾーンを広げると、その結果、DVDが売れていたんですよ。例えば、『のだめカンタービレ』なんかは結構売れていて、特に1期は数万本も売れているんです。2ちゃんねるに貼ってある数字の3倍くらい売れているんですよ、悔しくて言っているのですが(笑)。

サンキュータツオ 結構、2ちゃんねるを見ているんですね。

山本 最近、見ています。コンプライアンス的に見ないとまずいことがいろいろ書いてあるので。

 「視聴率が上がると、DVDを買う可能性のある層が増える」という分かりやすいロジックが成立していたところがあったんですね。大きく広げられるというところに、メディアの意味があります。今ももちろん大きく広げられるのですが、その広がり方が小さくなっているのは間違いないので、軸足をコア向けに取り直しているのです。

 苦肉の策のようですが、僕はもともとコア向けがやりたかったんです。でも、それだけではやれなかった時代が長くて、環境的にも「そっちに行くより、こっちだろ。『のだめカンタービレ』なんかできたら最高だよね」とみんなが思っていたんですね。しかし、『のだめカンタービレ』も1期、2期、3期と視聴率はそれほど落ちなかったのですが、DVDのセールスが落ちているんです。そこにカルチャーの変化とか、みんなが使える小遣いが減っていたりとかがあると思います。

『インフィニット・ストラトス』

サンキュータツオ 例えば、昔は1クールに2タイトルくらいのDVDを買えていたのが、今は1タイトル分しか買えない。じゃあ『放浪息子』(2011年)なのか『インフィニット・ストラトス』(2011年)なのかという時に、『インフィニット・ストラトス』を買うという人がいっぱいいるということですね。そう考えた場合、パイを争うだけになっちゃうじゃないですか。そこをどう打開するかという話になると思うのですが。

山本 『インフィニット・ストラトス』の話(Blu-ray Disc第1巻が発売初週で2万2000本を売り上げた)は象徴的ですね。

 でも、僕らは好きなことを2次創作的にやっていけばいいということではなくて、例えばスポンサーからすると、「あの人が次にこういうことをやると言っていることに張りたい」というものが絶対あるわけですよ。

サンキュータツオ 「神山健治がオリジナルをやるらしいよ」と聞いたら、そこに乗っかりたい人たちがいると。

山本 僕も『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』(2002〜2003年)の笑い男編を見て、「この人は天才だ」と思って「やりたいな」と思いました。「この企画をやって次につながるのか」という疑問を持ちながらクリエイターがやるようなものは、僕らはなるべくやりたくないんですよ。そういう作品でも僕は見たら好きかもしれないし、DVDを買うかもしれないのですが、多分次につながらないので。

サンキュータツオ 業界全体のパイを見た時に新しいパイを生むかどうか、あるいは試みとして新しいか、面白いかということなわけですね。

山本 これは「俺はアニメ業界を何とかするんだ」という慈善事業的に言っているわけではまったくないですよ。

サンキュータツオ 山本さんはそう言っても、世の中の人はノイタミナにそれを望んでいますよ。

山本 ノイタミナを始めた時はそんなことを考えていなくて、俺がやりたいだけだったんです。でも、その結果、クリエイターが「ノイタミナをやりたい」と言ってくれることが振り返ると僕らの武器だったんです。そこを見た時に、「そこは大事にしないとダメだな」と思ってこの考えに至っているだけで、善意でやっているとかではないですね。

サンキュータツオ 山本さんは「なぜクリエイターがノイタミナでやりたい」と言うようになったと思いますか。

山本 それは多分先ほど言ったように、企画意図みたいなところに一緒に参加できるからじゃないですか。どちらかというと僕らが参加させてもらっているのですが。

 監督は請け仕事が多いわけです。自分が知らないところでいろんな監督の候補が出ていて、スケジュールが合うとか合わないとか、あいつと仲がいいとか悪いとかで最終的に決まるものです。もちろん、「あなたにやってほしいんです」と来ることも多いと思いますし、いろんな形があると思いますが、自分発の企画ってなかなかできないんですよ。

 例えば、中村健治監督の『C』は「監督、次何かやってくださいよ」から始まっていたりします。神山健治監督の『東のエデン』も、「攻殻機動隊をもうちょっと派手にやりましょうよ」みたいなところから始まっていたりするんです。そういう、クリエイターにとって先につながるようなクリエイティブなことがやれるという印象があります。ただ一方で、やっている監督にとっては、「こんなにうるさいことを言うやつがいるとは思わなかった」みたいなこともあるので、いい話ばかりすると怒られるのですが。

サンキュータツオ 最後に山本さんが思い描くノイタミナの今後、5年後や10年後の話についてうかがわせてください。

山本 残っているかどうか分からないですが、ノイタミナブランドというものがよそでも通用するような独立性を強めたいです。

 フジテレビの浅めの深夜枠というのが売りの枠なのですが、関西だともっと深い時間帯だったり、それ以外の地方だと「ノイタミナって何?」ということになっているのが現状です。そこで、10月くらいからローカル局でも見られるような工夫をしているところです。

 フジテレビの看板は時に邪魔なわけです。やっぱりアンチもいるじゃないですか。特にアニメファンの人たちは、フジテレビのキャッキャッキャッキャやっているバラエティが好きかと言われれば、そんなに好きではないと思うんですよ。

 そういうのがあるので、ビジネスパートナーは“フジテレビ”に魅力を感じてくれているのですが、もうちょっと“ノイタミナ”に魅力を感じてくれるようにするという意味で独立性を強めたいということですね。フジテレビが「いらない」と言っても、TBSが「じゃあうちがやりますよ」というようなくらいになりたいですね。そうなったらフジテレビも多分手離さないんじゃないですか。

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