DVDだけではないビジネスを模索したい――フジ・ノイタミナプロデューサーが語るアニメの今(2/6 ページ)

» 2011年07月20日 08時00分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

一般性の強いアニメでもDVDは売れる

サンキュータツオ ノイタミナではここ数年、オリジナル作品(原作がない作品)が増えましたよね。4〜6月期の『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』『C』はオリジナルでしたし、『東のエデン』(2009年)もオリジナルでした。

山本 『フラクタル』(2011年)もオリジナルでしたね。

『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』。6月末に発売したBlu-ray Disc第1巻の初週売り上げは3万1000本と、テレビアニメ史上3位(第1巻として)となった

サンキュータツオ そういうオリジナル作品なのか、あるいは漫画原作なのか、小説原作なのか、いろいろあると思うのですが、ノイタミナでやる作品の選定基準を教えてもらえますか。

山本 最近、「ノイタミナは上段くさい」と言う人が一部でいるんですね。それがちょっと通じるかは分からないのですが、その辺は僕らは意識してやっています。

 ノイタミナには大きく3つくらい方向性があります。1つは、『のだめカンタービレ』のような、いわゆるメジャー原作もの。2つ目は、『東のエデン』『C』などの社会派のオリジナル作品。3つ目は、そこにビックリものを掛け合わせたものというか、アニメファンからすると(アニメ的な)作画のかわいい女の子を見たいのに、『空中ブランコ』(2009年)では実写を取り込んだキャラクターが登場するというようなものです。ノイタミナのオープニングとエンディングはしばしば、(アニメ的な)作画バリバリ系ではない、異ジャンルっぽいものにちょっと寄せています。

 その3要素が混ざっているのが、「上段っぽい」と言われる原因だと思います。

サンキュータツオ アニメーションとしてのステレオタイプを追求するのではなく、アニメメーションという表現でどこまでできるのか、という周辺的な作品も出していこうということですね。今、お話しした作画バリバリ系ではない、というのはどういった理由からなんですか。

山本 これも企画によるので、10月から放送する『UN-GO』という作品は、(制作会社の)ボンズのプロデューサーに「作画バリバリ系でお願いします」と僕が言っているんですね。ボンズの良さを出してほしいし、本編はアクションが多くない推理物なので、オープニングはそうしたいなと思ったのです。

 うまくいったかは置いておいて、例えば一番実写っぽいのは『C』のオープニングです。お金がテーマで、本編でバトルもあるという作品なのですが、足りないのは何だろうということで考えた時、「もうちょっと日常で使っているお金や、本編では描ききれない現実感をオープニングでやろう」と言って、やっていたりしました。

サンキュータツオ 僕なんかからすると「狙っているターゲットが違うから、こういう演出にしているのかな」と思っていた時期もあったのですが、その辺のノイタミナのコンセプトや歴史の変遷をうかがえれば。

山本 ノイタミナは大雑把に言うと、1回方向転換していると思います。

 僕自身がハンドリングしている割合は今でも多分3割くらいなのですが、昔は2割、1割ともっと少なかったんですね。そこに至るまでにトライしていたことがいくつかあって、そのトライが最初に出たのが『東のエデン』でした。そこで、初めて「一般性とオタクカルチャーを両方出したい」というかねてからの思いが実現できました。

 「フジテレビでアニメをやっている」と言うと、社内でも「『サザエさん』なの?」「『ちびまる子ちゃん』なの?」「『ワンピース』なの?」ということになります。『ワンピース』はオタク層にも受けているわけですが、オタク層向けだけじゃないところをやっていることを分かってもらうためには、ある程度一般性を確保しておかないとダメなわけですよ。フジテレビでやっている意味みたいなものがあるので。

サンキュータツオ 社内的にということですか。

山本 社内的にもですし、フジテレビでアニメをやりたいと思っている、ビデオメーカーや制作会社、音楽会社などのスポンサーからは、そういうところに期待されているところがあるので。他局より高いスポンサー費を払ってくれている人たちに「これはフジテレビでやって良かったね」と言ってもらえるようにしないといけないと思います。そして、スポンサーの求める優先順位が、ビデオの売り上げではない人たちが多かったんですね。

 企画の一般性ということでは、『のだめカンタービレ』がその象徴だと思います。社会現象になったドラマや映画と連動するために企画が立ち上がったわけです。そういうスポンサーたちが同じメンバーだったということで、一般性という思いの強かった時期がありました。それイコール、企画としてぬるいことをやるというわけではもちろんありませんよ。

サンキュータツオ うまくはまったパターンだと『墓場鬼太郎』(2008年)や『働きマン』(2006年)もありましたね。

山本 ビデオも今言った3つだと、『働きマン』は正直あまり売れなかったのですが、『のだめカンタービレ』と『墓場鬼太郎』は結構売れているんですよ。オタク層がウオッチしている2ちゃんねるとかに貼っている数字と乖離(かいり)していて、実は大分売れているんです。多分、オタク層の人たちは1巻の初週売り上げしか見ていないですよね。

 『墓場鬼太郎』はNHK連続テレビ小説の『ゲゲゲの女房』が放送された時にバックオーダーが来ていたのですが、一般性ってそういうことだと思うんですよ。でも、「一般性=オタク層をはじく」ということでもなくて、そのバランスがもともと拮抗していたのですが、よりオタク層に傾きを変えていった転換期が『東のエデン』くらいからだったと思います。

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