新卒者の就職が厳しい本当の原因と解消する方法

» 2011年07月15日 08時00分 公開
[川口雅裕,INSIGHT NOW!]
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著者プロフィール

川口雅裕(かわぐち・まさひろ)

イニシアチブ・パートナーズ代表。京都大学教育学部卒業後、1988年にリクルートコスモス(現コスモスイニシア)入社。人事部門で組織人事・制度設計・労務管理・採用・教育研修などに携わったのち、経営企画室で広報(メディア対応・IR)および経営企画を担当。2003年より株式会社マングローブ取締役・関西支社長。2010年1月にイニシアチブ・パートナーズを設立。ブログ「関西の人事コンサルタントのブログ


 新卒の就職難は基本的には求人数の伸び悩み、企業が雇用者数を増やせない状況に陥っていることにその原因がある。企業からは「採用レベルに達しない学生が多いからだ」という声も聞こえてくるが、それはこれまでも景気低迷期において企業が採用数を絞るときには常に出ていた声で、採用数を絞るために基準を厳しくすれば、それに達しない学生が増えるのは当然だ。

 そもそも、採用基準を厳しくしなければならないのも、企業が雇用を増やして人件費を払える状況にないからである。だから、新卒の就職難を解消していくためには、企業の人件費の支払い余力を大きくすることが最も重要な課題となる。

 企業の人件費支払い余力を大きくする方法は、業績の伸長か、在籍している人たちの人件費などを下げるか、どちらかしかない。まとめると、就職が厳しい理由は、人件費の支払い余力の乏しさであり、その原因は、業績の低迷と人件費の高止まりであるということだ。

 そして、このようになった責任について考えれば、業績の低迷は政治や行政の体たらくが影響しているといはいえ、それを除けば、経営であり、幹部・管理職の能力の問題とも言えるだろう。人件費の高止まりは、硬直的な労働法の問題もあるとはいえ、それを除けば、経営や幹部・管理職自身の報酬の高さの問題だ。つまりは、経営・幹部・管理職における能力と報酬のミスマッチが就職難の本質なのである。

経営・幹部・管理職における能力と報酬のミスマッチの解消が大事

 このような認識に立てば、学生に対する就職支援を税金を使って行うのは適切ではない。企業の人件費の支払い余力が増えない限り、就職できる学生は増えないので、効果がないからだ。就職支援によって就職できた学生がいたとしても、その人の分、就職できなくなった学生が生まれるわけで、そのような支援は大学や民間に任せればよい。税金を使ってやるべきことは、経営・幹部・管理職における能力と報酬のミスマッチを解消することなのである。

 解消法の1つは、経営陣・幹部・管理職のレベルアップだ。少しでも、報酬に見合う能力に近づけるようにすることである。経営管理、マネジメント、コミュニケーション、マーケティングなどでもよいし、企画や調整や役割行動や実行の力といったものでもよいだろうし、もっと実務的なスキルでもよいと思うが、企業の上位階層に学ぶ気のない人があまりにも多い。新規性の高いもの、疎い分野、苦手分野に距離を置いたままの人たちが多すぎる。

 実際には「このような人たちの成長にはもはや期待しない」と言う経営者も多いが、税金を使うのなら、この階層のレベルアップを支援し、企業の成長による雇用の増加を目指すべきである。

 もう1つは、幹部・管理職に限った労働規制の緩和である。幹部・管理職とはいっても、若手と同じように労働法に守られており、解雇はもちろん、不利益な変更さえほぼできない状況にある。人件費が高止まりするのは当然のことだ。これまで、ベアの廃止、昇給・賞与の水準下げ、諸手当の改廃、昇格年限の長期化、残業規制といった方法で人件費を抑えてきたわけだが、本当に重い人件費はたいていの企業において、機能しない幹部・管理職の給与である。

 ところが、そこに手を付けたくとも、現行の労働法の壁は厚く、彼らは守られたままになっている。職責や勤続年数を条件にこの規制を緩和し、これによって彼らが受ける不利益に対して、セーフティネットとして税金を投入すればよい。そうすれば企業に人件費の支払い余力が生まれ、就職難は大きく改善されるはずである。(川口雅裕)

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