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» 2011年07月14日 16時10分 UPDATE

被災地で2カ月過ごした記録:写真集『THE DAYS AFTER――東日本大震災の記憶』

東日本大震災に関する写真集は多く出版されているが、個人の写真集が初めて発売された。『THE DAYS AFTER』には、カメラマンの石川梵氏が一部は飛行機から空撮、残りは被災者に寄り添うように撮った写真がまとめられている。

[吉岡綾乃,Business Media 誠]

 「人は忘れる生き物だ」――最後のページを読み終えて本を閉じたとき、真っ先に心に浮かんだ感想がそれだった。

THE DAYS AFTER――東日本大震災の記憶 『THE DAYS AFTER――東日本大震災の記憶』石川梵(飛鳥新社)

 写真集『THE DAYS AFTER――東日本大震災の記憶』は、カメラマンの石川梵氏が2カ月にわたって被災地に滞在し、撮り続けた写真をまとめた写真集だ。東日本大震災に関する写真集は数多く出版されているが、個人の写真集はこれが初となる。

 3月11日、都内にいて帰宅難民になった石川氏は、翌朝なんとか自宅にたどり着き、テレビで信じられない光景を見た。津波に襲われる街、逃げ惑う人々、目の前で妻子を流されて泣き叫ぶ男の姿。

 「大変なことが起こっている」――驚いた石川氏はすぐに知り合いの編集部に連絡をとり、セスナで被災地の様子を空撮した。この写真集の前半は空から撮った被災地の姿だ。津波で元の姿が消えてしまった町、押し流されてミニカーのように固まっている乗用車、まっすぐ伸びた真ん中だけ完全に水に沈んでいる道路……地震直後、我々がテレビで見て言葉を失った被災地の状況の数々が、空から撮った動かぬ写真として記録されている。

 途中からは視点が切り替わり、実際に被災地を歩き回って撮った写真に切り替わる。飛行機から降りたあと、石川氏はバイクで被災地に向かった。福島では放射線雨を浴びながら撮影を行った結果、スクリーニングでカメラバッグを没収、焼却処分されたという。

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 被写体に寄り添うような石川氏の写真からは、想像を絶する状況に放り込まれた現地の人たちの悲しみや虚無感が伝わってくる。がれきの山と化した家、花を供えて立ち尽くす女性、強い風に吹かれながら立って経を読む僧侶……報道写真とは異なる視点が印象的だ。

 冒頭で「人は忘れる生き物だ」と書いたのは、写真集を見終わったあとで、震災直後に抱いた、あのなんともいえない不安な気持ちが生々しくよみがえってきたからだ。直接被災したわけではなかった人たち(私もそうだが)も皆、震災直後はある意味平常心ではなかったと思う。あの頃、テレビから流れるショッキングな映像や、毎日ひっきりなしに続く強い余震に「これからどうなるんだろう……」と、毎日強い不安にさいなまれていた。震災から4カ月が経って忘れていたあの感覚が、写真集を見ることでよみがえったのだ。

 写真集の最後に、印象的な個所があった。「実は深夜の被災現場の撮影は気が進まなかった。瓦礫の前に立つと、突然命を絶たれた無念の人々のうめき声が聞こえてくるようで、居たたたまれない気持ちになると同時に、底知れぬ恐怖も感じるからだ。この時点で震災の試写・行方不明者が24,000人を超えていた。震災取材中に目にした遺体と、苦痛に歪んだその表情がリアルに蘇ってくる。」

 石川氏のライフワークは、氷河に削られるアラスカや裂けていくアフリカ大陸など、大自然のダイナミズムを撮ることである。この写真集に収められた写真の数々は、報道カメラマンではないから、現地に滞在し続けたからこそ撮れる写真なのではないかと思うのだ。

 復興まではまだまだ時間がかかる。震災の記憶を、そしてあのとき感じた不安や恐れを忘れないために……『The Day After――東日本大震災の記憶――』はそう思う人に見てほしい写真集だ。

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