「書いたらその社は終わり」と言われ、なぜ記者は怒らなかったのか相場英雄の時事日想(2/2 ページ)

» 2011年07月14日 08時00分 公開
[相場英雄,Business Media 誠]
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怒らぬ記者などいらない

 10年ほど前、筆者も同じようなケースに遭遇した。

 ある経済官庁の定例会見で担当局長が口を滑らせ、「ここはオフレコでお願い」と懇願したのだ。もちろん、会見場に詰めていた記者全員が声高に「ノー」を突きつけた。同時に、内外の通信社の速報担当者は会見場から飛び出して速報を打ち、局長の発言を一字一句読者に届けたのは言うまでもない。

 筆者は駆け出し時代、先輩記者から以下のようなことを厳しく教えられた。「会見や個別インタビューのアポが取れたら、オフレコは原則ナシ」。オフレコを強要されたら、特オチ(1社だけネタを逃すこと)でも構わないとさえ言われた。

 先の面談についても当日、あるいは翌日にテレビや新聞で事実関係が報じられ、松本氏辞任の直接の原因になったのは明白だ。彼が強要した「オフレコ」は通じなかったわけだが、本来ならばあの面談の場で、顔を真っ赤にして怒る記者がいるはず、というのが筆者の率直な感想なのだ。

 件の面談のあと、取材陣の間でどのようなやりとりがあったのか、筆者は知る由もないが、このうちの数人は上司に叱責(しっせき)されたのではないか。

 SNSや動画サイトの発達とともに、政府要人やニュース素材となる人間の情報は、一次情報として一般の読者や視聴者の手元に届くようになった。換言すれば、取材する側の姿勢も同じように可視化されているのだ。

 記者は読者や視聴者の代理である。横暴な権力者に接した際は、面談の場の空気を壊してでも怒る必要があるのではないか。その場で感じた違和感や怒りが、読者に届くはずだ。現場の第一線を離れた元同業者として、怒らぬ記者などいらないと声高に言いたい。 

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