今もっとも注目すべき作家・名和晃平「シンセンス」(2/3 ページ)

» 2011年07月01日 16時28分 公開
[上條桂子,エキサイトイズム]
エキサイトイズム

 何が実像で何が虚像なのか、考えていくとどんどん頭がぐちゃぐちゃしていきそうだが、名和氏の探究はそれに留まらない。

 虚像と実像を突き詰めていく中で、名和氏は3Dスキャンという手法に出合う。3Dスキャナーでスキャンをすると人体もデジタルデータとなる。この真っ青な空間では、2体セットになった見上げる程の大きな像が空間を埋め尽くしている。「POLYGON」シリーズだ。

エキサイトイズム

 カクカクしたものと滑らかなもの、解像度をズラした2体がセットになっているようだ。高解像度のものの方がより実像に近い、のだろうが、何を持って実像とするのか……。2体とも実像ではないのかもしれない。POLYGONもBEADSは違うシリーズなのだが双方素材が2体重なり合っている。それについて名和氏が話していたことが興味深かった。

「鹿の剥製を海外からよく仕入れていたのですが、あるとき、みんな同じポーズをしているということに気が付きました。昔見た剥製はいろんなポーズをしていたように思うんですが、こんなところでも効率のためのフォーマット化が行われていたことに気付いてがく然としたんです。生き物を情報として扱っているのではないかと。そこから鹿をダブらせる手法が生まれました」

 ダブっている鹿同士は、違う個でもちろん個体差がある。生き物がフォーマット化されてしまっている。POLYGONは同じ被写体の、まったく同じ瞬間に取った3Dスキャンデータの解像度を下げ、少しずらした彫刻だ。その2体はほんの少し情報が違うだけの存在。双子とも違うし、分身とも違う。だが、2体は離れることはできない。

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 名和氏の興味は、「BEADS」や「PRISM」などに見られる実体を虚像に仕立てる、実体と虚像の感覚を揺るがすところから、データを素材に作られた彫刻の実体性についてと少しずつシフトしてきているという。

 以前に佐藤雅彦氏が21_21 DESIGN SIGHTで開催した「“これも自分と認めざるを得ない”展」では、指紋や身長体重、虹彩、心音……とさまざまなアイデンティフィケーションの一部だけを見たときに、それが自分といえるのか、と最後までぐるぐる考えさせられた。データだけ見せられて「これがあなたです」といわれると、ムカッともするが、それが外れたときの残念さたるや。複雑な気持ちで会場を後にしたのも記憶に新しい。

 名和氏の作品は、対象が自分ではないがどこからが生物でどこからが人工物なのか、対象のフォルムだけを残した状態でその対象に対する感情が湧くか、そんなことを考えさせられた。

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