安くて簡単なエネルギー――地域に供給する“熱”とは松田雅央の時事日想(2/4 ページ)

» 2011年06月28日 11時33分 公開
[松田雅央,Business Media 誠]

都市をカバーする熱の供給網

 地域熱供給の例として筆者の住むカールスルーエ市のエネルギー・水道公社が運営する地域熱供給を見てみる。

 人口約28万の同市では市街地にある2万3000軒の住宅と、1200カ所の工場・事務所・公共施設が地域熱供給システムに接続している。約20気圧で送り出された75〜130度の温水は、消費側で熱交換され低温水となり、また戻ってくる。断熱材に覆われた全長150キロメートルの配管が、ガス管と同様に市街地を網羅している。

 まずは1992年にライン川港湾の大型火力発電所から熱供給が始まり、2010年からは石油コンビナートも供給側としてシステムに組み込まれた。

 消費側は暖房・給湯に使用した熱量分の料金(1KWhあたり5セント〈4円〉)と月々の基本料金(7ユーロ:約800円)をK公社に支払う。平均的な世帯で年間850ユーロ(約9万7000円)程度の負担となり、これは灯油を使用する暖房・給湯費用よりもかなり安い。経済性だけでなく、各建物に個別のボイラーを設置しなくてよいためスペースの節約にもなる。

 他方、火力発電所やコンビナートにとっては消費者が熱を使えば使うほど都合がいい。戻ってくる水の温度が低いほど冷却効率が高まり省エネになるからだ。また、廃熱は本来、費用をかけて処理(放出)しなければならないゴミだから、それが売れれば願ったりかなったりだ。

火力発電所から市街地へ延びる温水送水の本管。常に送水管と戻し水管の2本がセットとなる(左)、建物に備え付けられる熱交換装置(右)。上の送水管(左)から高温水を取り込み、熱交換器(2)で熱を取り出し、下の戻し水管で送り返す。使用した熱量を測るメーター(3)も付いている。敷地内の配管敷設と熱交換装置の設置は建物の所有者が自費で行う(出典:カールスルーエ市エネルギー・水道公社)

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