ソーシャルゲームユーザーは、いつ財布を開くのか――顧客満足度とマネタイズの関係野島美保の“仮想世界”のビジネスデザイン(3/3 ページ)

» 2011年06月24日 08時00分 公開
[野島美保,Business Media 誠]
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ソーシャルゲームのマーケティング・モデル

 満足度曲線について数年間取り組んだが、現在は調査を中止している。というのも、ソーシャルゲームになってタイムスパンが大幅に短縮され、MMO時代の測定方法ではとても間に合わなくなったからだ。

 MMOは、長ければ5年超に及ぶ数年スパンのプレイを前提とする。そこで、ユーザーの利用期間を数年単位で伸長すること、つまり満足度曲線の下降を食い止めることが課題となった。長期的な下落カーブを知るには、1カ月単位で満足度を計測すればよかった。

 一方、ソーシャルゲームは開発期間も短ければゲーム寿命も短く、リリース後の最初の3カ月が勝負である。初期のMMOのように、1〜2年はβテストとして無料提供して、ユーザーの様子を見ながら定額制に移行するような、悠長な時代ではなくなった。

 スパンの短いソーシャルゲームでは、即座にマネタイズに移行するビジネスのスピードが求められる。「とりあえず作ってリリースしてみて、人気が出てきたらマネタイズのスキームを載せよう」というように、様子見のスタンスでいると、かえって危ないことになる。なぜならば、急激に立ち上がりたちまち下降する満足度曲線の中で、マネタイズできるチャンスの期間が短いからである。人気が出たと判断した時には、すでにユーザーは無料プレイでおなか一杯で、満足度の下降フェーズに入り始めている。そこで、ユーザーを引き止めるために新しいイベントやマップなどの無料部分を制作しながら、同時にさらに魅力的な有料コンテンツを出さねばならなくなる。

 では、ソーシャルゲーム時代に合う満足度の測定方法は何だろうか。毎週、毎日のスパンでユーザー行動を把握しなければ間に合わない。しかし、毎日ユーザーにアンケートで満足度を答えてもらうわけにもいかない。そこで、ゲームへのアクセス記録(ログデータ)から、間接的にユーザーの満足度を推し量る、データマイニング系の手法が注目される。アンケートによる満足度の実測に代えて、ユーザー行動を示す新たな指標をログデータから抽出できれば、今回紹介した満足度曲線と同様の分析も可能である。

 ログデータ解析によるゲーム運営の代表は、米国発のデータ・ドリブン・アプローチである。ユーザーの日々のプレイ状況を測定して数値化し、ゲームシステムの修正すべき点を洗い出し、運営中のゲームにリアルタイムで改変を加えていく手法である(「『走りながらマーケティングする』――データに支えられたソーシャルゲーム運営」)。

 日本でもこうしたマーケティングデータが注目されるようになったが、米国ソーシャルゲームのロジックの全面理解にはまだ達していないと感じる。米国人気ゲームのアイテムやゲームシステムの一部を模倣する例が散見されるが、パーツの真似だけでちぐはぐである。有料アイテムを真似しても、その出す時期と出す順序が違えば効果も大きく異なる。

 ユーザーの満足度は時とともに変化し、それゆえマネタイズにはタイミングが重要であるという、大枠の認識が足りないのだと思った。そのためには背骨となる基本理論が必要である。今回紹介した筆者の研究内容に、米国発の数量的アプローチを融合させ、日本流のデータ・ドリブンを作りたいと考えている。この続きについては、また別の回で述べたい。

野島美保(のじま・みほ)

成蹊大学経済学部教授。専門は経営情報論。1995年に東京大学経済学部卒業後、監査法人勤務を経て、東京大学大学院経済学研究科に進学。Webサービスの萌芽期にあたる院生時代、EC研究をするかたわら、夜間はオンラインゲーム世界に住みこみ、研究室の床で寝袋生活を送る。ゲーム廃人と言われたので、あくまで研究をしているフリをするため、ゲームビジネス研究を始めるも、今ではこちらが本業となり、オンラインゲームや仮想世界など、最先端のEビジネスを論じている。しかし、論文を書く前にいちいちゲームをするので、執筆が遅くなるのが難点。著書に『人はなぜ形のないものを買うのか 仮想世界のビジネスモデル』(NTT出版)。

公式Webサイト:Nojima's Web site


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