何が改革を妨げるのか?――現役官僚が語る、官僚や東京電力の問題(3/5 ページ)

» 2011年06月22日 12時30分 公開
[堀内彰宏,Business Media 誠]

電力会社が各業界を支配する構造

東京電力の清水正孝社長

古賀 次に東京電力の問題に移りたいと思います。その中でも、東京電力などの電力会社が日本の経済界や政治、官僚、そのほかの社会的なプレイヤーとがどういう関係になっているのかという構造問題について話したいと思います。

 経団連が最近東京電力を非常に擁護する発言をしていますが、まず経済界と電力会社の関係を見てみたいと思います。電力会社は各地域で最大級の調達を行う企業です。ですから、各地域の企業は電力会社に対して「大量のモノやサービスを売ってくれる」という量的な面で非常に依存していることが1つありますが、実はそれだけではなくて「非常に高く買ってくれる」ということが大事です。

 なぜそうなるかというと、究極的には競争がないからなのですが、実は電力料金を決める仕組みに問題があります。電力料金は法律によって経済産業省が認可することになっています。その時の電力料金の決め方ですが、かかったコストを積み上げて、それにいわゆる適正な利潤というものを上乗せして決める仕組みになっています。

 問題は適正な利潤というのはコストに一定の比率をかけて出すということです。いろいろ複雑な計算があるのですが、単純化するとそうなっています。ということは、かける比率は一定なので、利益を大きくするためにはコストを大きくしなければいけないという構造になっています。

 これは普通の会社とまったく逆の構造です。従って、見かけ上は入札などの手続きを踏んで、安く調達しようとしていますが、基本的にはコストを高くしても何の問題もない、あるいは高くした方がいいというくらいの構造になっているため、電力会社と取引する企業から見ると、非常にいいお客さんになっているのです。

 従って、電力会社に対して逆らうことはできなくなっている。そういう形で電力会社は経済界を支配しているので、経団連が例えば発送電分離に反対するというのは「そういうことによって競争が導入されて、電力会社がもし本当にコストカットを始めたら、自分たちの利益が大幅に減るだろう」と直感的に感じているからだと思います。

 そういう形で経済界を支配しているのですが、政治も電力会社の強い支配を受けています。自民党の場合は電力会社の資金力と集票力、民主党の場合は電力総連という組合による選挙支援です。これによって電力会社を敵に回すと自民党も民主党も議員としての議席を失う可能性が高いということです。

 次に官僚との関係、特に経済産業省との関係ですが、これは2〜3つのルートで電力会社が官僚を支配していると見ることができます。

 1つ目は証拠があるわけではないですが、電力会社は大臣や有力な政治家を通じて人事に介入すると非常に強く信じられています。

 2つ目は有名になった天下りポストの提供ですね。天下りポストがあるということはよく「規制する経済産業省の側が力が強くて押しつけている」と見られがちなのですが、そうではなくてどちらかというと「人質としてとられている」と考えた方がいいと思います。

 3つ目は若い官僚にはあまり当てはまらないのですが、今、トップの層にいる経済産業省の官僚は昔から電力会社と仕事ではなくプライベートな世界での付き合いが長いことです。年中宴会をやったり、ゴルフに行ったり、視察旅行と称した旅行に行ったりという関係を長年続けてきた人たちが、電力会社のトップと非常に緊密な個人的な関係を持っていることがあります。今はいろんなことが禁止されていますが。それらの結果、経済産業省と電力会社の関係は緊張関係ではなくてむしろ共同体、同好会やクラブ的な関係になっていると言った方がいいと思います。

 それからマスコミとの関係があります。電力会社は競争していないのであまり宣伝する必要はないと思うのですが、巨額の宣伝広告費を使っています。これによって、かなり多くのマスコミ企業やジャーナリストが自由に電力会社批判をしにくくなっているという現実があると言われています。それは企業に対する広告費という面ですが、いろいろ報道されている通り、個人的にもマスコミの関係者を旅行に招待したり、ケタ外れに高い原稿料や講演料、出演料を払うということが実際に行われているようで、私も知り合いのマスコミの方からそういう話をいくつも聞いています。

 もう1つ、学界との関係があります。学界も同じように研究費の提供、あるいは原稿料や講演料といった資金的な援助を受けているという面、それから原発などは特にそうなのですが、各種データを優先的に提供してもらうという関係もあります。それから、自分が教えている学生を電力会社に就職させる面でも便宜を受けているという関係で、学界も支配していると言われています。

電力会社が支配する構造を変えるために

 今述べたように電力会社がさまざまな世界を支配している構造を変えていくための電力市場改革について簡単にお話しします。

 1つ目がよく言われている送電と発電の分離です。送電網は基本的に独占的にならざるを得ないのですが、送電網を持っている会社が発電も独占しているということで、9電力以外の発電会社がほとんどビジネスの機会を奪われている構造を変えるということです。

 2つ目は送電と発電を分離しても、今の状況では発電分野ではやはり今の電力会社、分割された後の発電会社が圧倒的なシェアを持ち、市場を支配する力を持ってしまうという問題があります。従ってこの発電部門は送電と切り離した上で分割することが必要になると思います。

 3つ目は電力販売のことですが、今、小売りが一定の大きな規模(契約電力50キロワット以上)のところまでしか自由化されていないのですが、家庭まで含めて完全に自由化することが必要だと思います。こうして消費者は電力会社を選択できるようになることで、本当の競争が起きると思います。

 そして4つ目に市場で本当に競争が起きているかを監視する機関が必要です。今、電力事業は経済産業省が所管して、全部見ているのですが、その競争についての独立した監視機関を作ることが必要だと思います。

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