震災を教訓にと言うけれど……自動車部品の共通化は国主導で進めるべきか(1/2 ページ)

» 2011年06月17日 10時00分 公開
[中ノ森清訓,INSIGHT NOW!]
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著者プロフィール:中ノ森清訓(なかのもり・きよのり)

株式会社戦略調達社長。コスト削減・経費削減のヒントを提供する「週刊 戦略調達」、環境負荷を低減する商品・サービスの開発事例や、それを支えるサプライヤなどを紹介する「環境調達.com」を中心に、開発・調達・購買業務とそのマネジメントのあり方について情報提供している。


 「経済産業省と自動車、素材メーカー首脳らが参加する『自動車戦略研究会』は10日、メーカーの垣根を越えた自動車部品の共通化を進める報告書を正式に公表した。

 報告書には、東日本大震災で自動車部品のサプライチェーンが寸断されたことを教訓に、自動車各社や自動車部品、電機、電池、化学品などの業界団体が集まって共通化に向けた協議を進める協議会を経産省が主導して設置することを明記しているという」(出所:MSN産経ニュース、2011年6月10日)

 果たして、自動車部品の共通化は国主導で進めるべき話なのだろうか?

 経産省は、部品の共通化を、震災のみならず下請け支援のためという名目で押し進めようとしている。メーカーが競合との違いを打ち出すために車種ごとに部品の仕様を細かく分け、部品の仕様が増えすぎたことが下請けの体力を奪っているとし、そのためにも部品の共通化が必要としている。

 しかし、部品メーカーや下請け企業にとって、部品の共通化の先にあるのは体力勝負の血みどろの競争だ。日本の自動車産業の強みは、「すり合わせ型」のモノづくりにあると言われる。すり合わせ型のモノづくりとは、部品やモジュールの設計を互いに調整しながらすり合わせて製品化していくものだ。すり合わせ型の場合、欧州部品メーカーの規模やアジアの新興部品メーカーの積極的な設備投資という手法は通用せず、日本の部品メーカーが優位性を保つことができた。

 部品の共通化の目指すところは、部品そのものやほかの部品、モジュールとの接続方法を標準化し、これらの間でのすり合わせの必要性をできる限り少なくすること。それにより、さまざまなメーカーの部品の切り替えを簡単にできるようにすることだ。つまり、対象としている部品を、すり合わせ型のモノづくりから、PCなどに見られる「組み合わせ型」のモノづくりに転換しようというものだ。

 買い手企業から見れば、すり合わせに掛かる調整コストがなくなり、かつ1つの部品を提供できるサプライヤも増え、競争が活性化され、よりコスト低減の機会も増える。災害などで、あるサプライヤからの供給が断絶しても、代替ルートを確保しやすいといったリスクマネジメント、クライシスマネジメント上のメリットもある。

 しかし、サプライヤにしてみたら、とんでもない話である。自分たちの特徴を消され、血みどろの戦いの市場に無理矢理追い込まれるのである。余計なお世話だ。

 この自動車戦略研究会には、この提言により死活問題を迫られる部品メーカーや下請け企業は参加していない。Tier1と呼ばれる1次下請けが数社入っているに過ぎず、その先のTier2、Tier3といわれるサプライヤはここに参加していない。こんなところで自社の命運が決められるとしたら、それは随分と悲しい話だ。

 参考までに、自動車戦略研究会の委員のリストは以下の通り。

天野洋一(社団法人日本自動車販売協会連合会会長)

石谷久(東京大学名誉教授)

伊東孝紳(本田技研工業社長)

小川紘一(東京大学総括プロジェクト機構 知的資産経営総括寄附講座 客員研究員)

小林喜光(三菱ケミカルホールディングス社長)

志賀俊之(日産自動車最高執行責任者、一般社団法人日本自動車工業会会長)

下村節宏(社団法人電子情報技術産業協会会長、三菱電機会長)

白井芳夫(日野自動車社長)

鈴木修(スズキ会長兼社長)

豊田章男(トヨタ自動車社長)

信元久隆(社団法人日本自動車部品工業会会長、曙ブレーキ工業社長)

深谷紘一(デンソー会長)

本間充(社団法人電池工業会会長、三洋電機副社長)

益子修(三菱自動車工業社長)

山内孝(マツダ社長)

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