「震災のせい……」と言い訳をする、ダメな経営者吉田典史の時事日想(3/4 ページ)

» 2011年06月17日 08時00分 公開
[吉田典史,Business Media 誠]

言い訳をする経営者

 私はこういう言い訳をする経営者を最近、経済紙でも見つけた。この経営者が答えるインタビュー記事を読んだのだ。経営者は40代後半で、都内でIT系ベンチャー企業を営む。社員数は30人前後で、売り上げは8億円ほど。

 彼は東北出身で、自身の故郷の現状を嘆いていた。津波で町が崩壊した場所で1人で呆然と立ち尽くし、涙を流す写真が載っていた。その横にインタビュー記事があり、彼は「東北の被災者を支援しよう」と呼びかける。さらには、「日本人は弱者に冷たい」といった意味合いのことまで記者に答えていた。

 私はバカバカしくなった。実は、3年ほど前にこの経営者を取材した。そのとき、本人からよからぬことを聞いた。「ウチの会社では、卒業をする者が毎年5人ほどいる。ダメな奴は卒業させる」。卒業とは、退職を意味するのだという。本人の意思に反して、"卒業"させるのだという。

 取材のときには話を合わせていたが、どうもふに落ちないものがあった。この“卒業”というきれいな言葉には、退職強要の疑いがあるからだ。会社に残るかどうかは最終的には社員の自由意思なのである。これは労働法や民法で認められていることだ。

 会社としてその社員を辞めさせたいならば、解雇通知を文書の形で本人に出すべきである。それは懲戒解雇、整理解雇、普通解雇といずれの場合も同じだ。ところが、多くの会社は解雇にすると、法的な争いになり、不利になる可能性があるから、なかなか解雇通知を出さない。

 その代わりに、本人にしつこく迫り、辞表を書かせようとする。つまり、自ら辞めたという事実を作りたいのだ。たとえ経営者が「辞めろ」と言っても、「私は辞めません」と拒否をする意思を示せば、法的にはそれ以上は退職を迫ることはできない。それは、まさしく退職強要でしかない。民法の損害賠償の請求対象行為であり、「不当な行為」と呼ばれるものだ。

 この会社は助成金などを受け取ることを役所に申請し、一定のお金を得ていると経営者自らが私の取材時に話していた。社会から恩恵は被るが、法を守ることはしない。こういう考えを持つ経営者が「東北が……」と口にしても、説得力がないように思えた。自分の故郷の被災者が「弱者」であるならば、自身が法律に抵触しつつ職を奪った元社員も「弱者」ではないだろうか

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