「iOS 5」「iCloud」で加速する、“怪獣大戦争”のゆくえ遠藤諭の「コンテンツ消費とデジタル」論(2/3 ページ)

» 2011年06月15日 15時45分 公開
[遠藤 諭,アスキー総合研究所]
アスキー総研

Webの世界でアプリっぽいことが何でもできそう

 ここ十数年のコンピュータ業界の地殻変動といえば、インターネットとそれに関わる技術へのシフトがある。企業も足元のネットワークから順番にオープン化が進み、SalesForce.comのようなWebベースでのソフトウェア提供や、クラウドコンピューティングが最大の注目事項となっている。

 個人利用でも、Yahoo!メールGmailのようなWebメールを使うことはごく当たり前になっており、Flickrのような写真共有サイトや、Evernoteのような優れたWebサービスが重宝されている。下図は、アスキー総研のデジタルとコンテンツに関する1万人調査『MCS 2011』で、「Webアプリ系サイトの利用状況」(2010年4〜11月に利用したもの)を聞いたものだ。

Webアプリ系サービスの利用率(アスキー総研「MCS 2011」で集計)。Yahoo!メールやGoogleマップ、YouTubeの利用率は50%前後。つまり、ネットユーザーの約半数が利用している

 Yahoo!メールやGoogleマップ、YouTubeなどは、約50%の人たちが利用している。これまでネットの世界で50%の人が使うサービスは、検索エンジンやポータルサイト以外にはなかった。そういったWebアプリの利用傾向は、今後ますますはっきりしていくことは間違いない。これらを可能にしている背景には、JavaScriptとAjax、CSSといった技術が定着してきたということがある。

 Adobeが飛ばし気味に世の中に問うたAIRとは少し趣は異なるが、「Webの世界でアプリっぽいことが何でもできそう」になってきているのが、今なのだ。タブレット端末での操作を容易にするjQueryなど、この路線を追うツールもいろいろと出てきている。「HTML5」を旗印とする大きな潮流になっているといえる。

 これらの動きが、iPhoneによってもたらされたiOSやAndroidのアプリの世界に、強烈にぶつかりはじめている。

 どちらも「コンピュータと通信の合体」に向かっているわけだが、どちらの道に行くのがユーザーやサードパーティにとってハッピーかということが問われているのだ。そして今のところ、HTML5陣営とiOS/Androidの世界の間には、決定的な基本理念の違いが見てとれる。

 アップルとグーグルは、「アプリ」「ストア」「コンテンツ配信」「広告」「決済」といった要素をひっくるめて、1つのパッケージとして提供するのがコンピュータの動作環境だと定義し直したのだ。今回のWWDC 2011でのアップルの発表は、それをいよいよ印象付ける内容だったといえる。

グーグルとアップルがそれぞれ提供する垂直統合パッケージ

 要するに、「コンピュータと通信が合体したら何でもできる」ということだ。スマートフォンは、当然ながらコミュニケーションツールであり、ソーシャルメディアとも連携できる。電話や手紙、新聞・テレビといったいわゆるマス4媒体を飲み込んでしまうばかりか、我々がふだん目にする広告看板や、お店やサイフの機能も取り込んでしまいかねない魔法のデバイスと言っても大げさではない。

 アップルとグーグルは、この領域で目下、強烈に張りあっている。Webアプリの世界は、これらとどう対抗していくのだろうか? この2社に加えて、AmazonやFacebookなどのプラットフォーマーも交えた“怪獣大戦争”が今、起きている。Webアプリは、そうしたパワーゲームの足下で、ごそごそと動き始めたほ乳類だという見方があっても良いのかもしれない。

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