部長と課長の確執――部下が取るべき手段は?吉田典史の時事日想(2/3 ページ)

» 2011年06月10日 08時00分 公開
[吉田典史,Business Media 誠]

部下として疲れ切った日々

 部長が部署の責任者であり、その下に2つの課がある。それぞれに課長がいる。しかし、課長らを信用していない。部長は小さいころから親から甘やかされてきたから、常に自分中心でないと気がすまないのだろう。仕切れないと、イライラし始める。「権限委譲」という発想がないのだ。

 課長が席を外したときには、私や女性社員らを自席に呼び、「まずは俺に仕事の報告をするように」と迫る。課長にはそのことを言わない。確かに課長は部長に報告をしていなかった。事実、それによりトラブルが起きていた。

 部長はこの課長に「報告しろ」と言いたいのだが、言えない。実際、課長は何かを言われると、怪訝(けげん)そうな表情を見せる。私が「なぜ、直接、課長に言わないのですか」と聞くと、部長は「彼女を怒らせると厄介」と答えた。

 課長と部長は3メートルほどしか席が離れていないのに、話し合わない。私は「職場で唯一の男性だから」という理由で、部署で話し合われていることを部長に報告することを求められた。

 これを無視していると、部長は階段の踊り場に呼び出し、「課長は何を言っているのか」と聞き出そうとする。皆が帰ったころを見計らい、「自分のことを悪く言っていないか」と言い始める。この生活が続くと、私は精神的に疲れ切っていた。

皆が「個人事業主」の職場

 この職場を離れ、6年が過ぎようとしている。当時、なぜこのような状況に陥ったのかを考えてみたい。「部長と課長の確執」と言えばそれまでだが、少なくとも以下のことが挙げられると思う。

(1)部課長をはじめ、部員らが互いに縄張り意識が強く、協力し合う意識が弱い。

(2)部員それぞれが、自分の仕事以外に注意が行き届かない。

(3)部員たちが皆で真摯に話し合う「場」がない。

(4)部長や課長らに警告を発する人や部署がない。例えば、人事部など。

(5)部長と課長が話し合う「場」がない。

(6)社員の間に危機意識がない。

 これらには共通するものがある。一言でいえば、部課長を始め皆が意識の面では個人事業主になっていることだ。自分の仕事にしか関心がなく、チームという意識がない。そこには共通した思想も価値観もないからだ。会社員として一定の秩序のもと、動くためにはやはり、価値観の共有が必要になる。

 だが、創業50年以上になるとバラバラな意識のままでも成り立つものなのだ。ただし、業績は毎年右下がりになりつつあった。編集という仕事は1人でやっていけないこともない。これが、個人事業主化に拍車をかけていた。

 そこで私は部長と課長に互いに話し合う場や関わり合う『場」を設けるべきではと提案した。場があれば、2人は話し合うと考えた。皆も自分の問題と意識し、解決に向けて動き始めると思った。会議が年に1〜2回しかないのだ。だから、他の部員が何を考え、どのような仕事をしているかが分からない。ここから、職場の動きに鈍感な社員が生まれ、必要以上に縄張り意識の強い管理職が生まれると思えた。

 当初、話し合いの場を設けることに部長と課長は抵抗した。2人ともほぼ同じことを話していた。「あえて場を作っても意味がない」。他の部員は、2人の確執に「こんなことでは困る」と陰口を言うだけだった。

 結局、役員の判断で月に1回のペースで話し合う場が設けられ、そこで皆が意見をぶつけ合った。

 部長と課長はここでも話し合いをしなかったが、課長は部長の言うことをしだいに聞くようになった。部長も課長に権限を多少、委譲し始めた。2人の確執は続いたが、職場の空気は変わっていったことは事実である。私はその後、辞めた。

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