若者よ、ストップモーションから抜け出そう!――夢を応援基金CM郷好文の“うふふ”マーケティング(1/3 ページ)

» 2011年06月09日 08時00分 公開
[郷好文,Business Media 誠]

著者プロフィール:郷 好文

マーケティング・リサーチ、新規事業の開発、海外駐在を経て、1999年〜2008年までコンサルティングファームにてマネジメント・コンサルタントとして、事業戦略・マーケティング戦略など多数のプロジェクトに参画。2009年9月、株式会社ことばを設立。12月、異能のコンサルティング集団アンサー・コンサルティングLLPの設立とともに参画。コンサルタント・エッセイストの仕事に加えて、クリエイター支援・創作品販売の「utte(うって)」事業、ギャラリー&スペース「アートマルシェ神田」の運営に携わる。著書に『顧客視点の成長シナリオ』(ファーストプレス)など、印刷業界誌『プリバリ[印]』で「マーケティング価値校」を連載中。中小企業診断士。ブログ「cotoba


 地震の恐さ――それは物理的な破壊だけではない。「どうすることもできないさ」と、夢も希望も捨てて立ち止まること。心の破壊こそ真の恐怖である。

 2011年5月28日と29日に1回ずつ、たった2回だけ放映されたCMがそれを教えてくれた。ディレクターズ・カットを入れた“60秒バージョン”を観てほしい。

【LAWSON】"夢を応援基金"CM フルバージョン

 

 屋上で空手の練習をする女子は腕を、グラウンドを走る男子生徒たちは足を上げたまま止まった。教室で朗読する生徒は口を開けて、教科書を持つ生徒もピタリと止まった。生徒たちは凍りついたように止まってしまった。

 だが、青空の雲は静かにたなびき、手洗いの石けんの網はかすかに揺れている。女子生徒の髪も教室のカーテンも風にそよいでいる。音楽室からかピアノの調べが響いている。周りは生きているのだ。

 男子生徒の机から、使い古しのブルーの鉛筆が落ちかける。その瞬間、生徒は鉛筆をしっかりとつかむ。鉛筆を握りしめた手、そして「未来へ。」というコピーが浮かび上がる。

 「がんばれ、がんばぁれ、明日の君へ♪」と歌が流れる。止まっていた若者たちは、一斉に動き出す。勉強する生徒も、走る生徒も、空手の女子も、専門学校での製作実習も。

 男子ゴルフのダイヤモンドカップ、全国でのテレビ放送中、たった2度だけ放映された「夢を応援基金」のCM。コンビニチェーンのローソンが、被災地学生の学費を支援する基金をPRする。放映されたのは30秒バージョンだが、それでも伝わってきた。

 家が流されても、親の仕事がなくなっても、居住地が封鎖されても、したくない就職をしなくてはならなくても、立ち止まっちゃだめ。どんな事が起きても世の中は動いていくのだから。

 そんなメッセージを、ボーカルユニットHoney L Days(ハニー・エル・デイズ)は「夢みる力は、絶対、日本の力になる。」というメッセージを込めて歌う。元気になる歌唱でエンディング。

生徒の夢を応援したい

 「温度があるもの、映像だけで気持ちが伝わってくるものを制作したかったんです」

 中心になって制作したローソン広報の樫山千尋さんは、1枚のコンテの提案書を広げてくれた。

 「店舗は誰に支えられているのだろう? それは学生アルバイトさん。彼らを応援したい。それがスタートでした」と樫山さん。

ローソン広報の樫山千尋さん

 ローソンの筆頭株主である三菱商事が主催するダイヤモンドカップ。ローソンも協賛するこの大会で、2回分のCM枠が取れた。今なら「夢を応援基金」しかない。

 基金はローソンからの拠出金(4億円)、グループ役職員・加盟店オーナー・店舗アルバイト、来店者からの寄付や募金などから運用し、高校生が大学や専門学校などに就学する期間(最長7年)、毎月3万円を支給する。夢を持ち続けてもらうため、返還不要である(対象者1000人、9月から支給開始予定)。募金は店頭募金箱・WebサイトからPontaポイント・店頭LoppiでのPontaポイントで受け付ける。

 基金の趣旨である“夢を応援”に対して、10件にのぼるCMの企画提案が寄せられた。その中に「学校で、止まった時間が動き出す」をテーマとした、“ローソンブルー”の手描きのコンテがあった。作者はこれがCM初監督作品となる後藤匠平さん(葵プロモーション)。

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