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» 2011年06月08日 08時00分 UPDATE

それゆけ! カナモリさん:社内のファンが支えた!――カルビー「堅あげポテト」の挑戦 (1/2)

「落穂拾い」「晩鐘」「種まく人」などの作品で有名なバルビゾン派の画家・ミレーは「人を感動させるためには、まず自らが感動しなければならない」と言った……。カルビーの「堅あげポテト」ヒットのヒミツを、独占取材した。

[金森努,GLOBIS.JP]
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それゆけ! カナモリさんとは?

グロービスで受講生に愛のムチをふるうマーケティング講師、金森努氏が森羅万象を切るコラム。街歩きや膨大な数の雑誌、書籍などから発掘したニュースを、経営理論と豊富な引き出しでひも解き、人情と感性で味付けする。そんな“金森ワールド”をご堪能下さい。

※本記事は、GLOBIS.JPにおいて、2011年6月3日に掲載されたものです。金森氏の最新の記事はGLOBIS.JPで読むことができます。


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 「千三つ」。新商品を1000個出してもヒットするのは3つぐらいしかないといわれるのは飲料市場が代表格だが、スナック菓子市場の激しさもそれに劣らない。数多の新商品が発売され、新商品・定番商品入り乱れて店頭の棚を奪い合い、1年後に生き残っている新商品は1つ程度だという。そんなスナック市場で、10年間以上かけて確実に育って定番化した商品がある。カルビー「堅あげポテト」だ。

 新タイプの商品が開発されるきっかけは、「市場の危機」である場合が少なくない。例えば、筆者がかつて取材した事例では、チューイングガム市場が「若者のガム離れ」によって2002年から縮小に転じたことを背景に、「噛むとフニャン」のロッテ「フィッツ」が開発された。市場のリーダーにとって縮小は存亡にかかわる危機であるからだ。市場のチャレンジャーにとっては、危機はチャンスである。カップ焼きそば市場で若年層の食用率低下をキャッチしたエースコックは、従来にない縦型カップで、若者が好む「ながら食べ」を実現することを軸に「JANJANソース焼きそば」を開発した。両商品とも大ヒット商品となった。

 「特に大きな危機は感じていなかったと思います」。

 当時、自分自身は開発担当スタッフではなかったという前置きをしたものの、こともなげに、カルビーの担当者は語った。1993年がポテトチップス市場のピークで、その後ゆるやかに市場は縮小し始めた。その後の2000年代は横ばいが続いたという。

 ポテトチップスがグループの売り上げに占める割合は38%。ポテトチップス市場のシェア65%を握るカルビーにとっては由々しき事態ではないのか。しかし、その市場の縮小は自社商品ヒットの影響も少なくないという。「じゃがりこ」「Jagabee」という新タイプのポテトスナック菓子が大ヒットしたのだ。

 業界では1995年の発売時に「じゃがりこショック」が起きたと言われているという。その従来にないポジショニングゆえだ。スナック菓子は1964年発売の「かっぱえびせん」にしてもポテトチップスにしても、袋をバリバリと開いて、みんなでつまんでワイワイと軽く食べる物だ。それに対してじゃがりこはカップ容器に指を突っ込んで、固い食感を1人で楽しんで食べる。市場がじゃがりこを受け入れたということは、従来の商品に対して、「新たな価値の定義」が求められていることだと社内では解釈したという。

 ポテトチップスという商品の価値定義を変える。従来見たこともないようなポテトチップスを作るという大きなチャレンジが始まった。開発者が目を付けたのは、日本では商品化されていない米国の「釜揚げタイプ」のポテトチップスだ。従来のポテトチップスより分厚く、カリカリした食感が楽しめる。

 通常のポテトチップスで人気のフレーバーで「味のバリエーション」も訴求したものの売れず、1997年にはストレートに「おいしさ」を前面に出して訴えかけたが、やはり市場の反応は芳しくなかった。各種のリサーチや地域限定テスト販売などを地道に続けるが、大きな手応えを得られないもどかしい状態が続いた。

 ついに1998年。「かむほどうまい!」というコンセプトにたどりつき、この商品の価値は「かみしめるうまさ」であることが明確化できた。フレーバーはシンプルな「うすしお味」と「ブラックペッパー」の2種に確定した。

 「商品に対する確たる手応えをつかむまでの売れない日々を乗り切れたのは、社内にしっかりファンができていたからです」と担当者は営業マンだった当時を振り返る。彼を支えたのは、「食べてもらえれば分かる」という商品価値に対する確信だった。そのため、試食のローラー作戦もひたすら商品の価値を信じて実行したという。その甲斐もあって、商品ユーザーの食用のきっかけは「人に勧められて」が多いという。市場に価値が認められたのだ。

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