Twitterはコミュニケーション革命なんかじゃない遠藤諭の「コンテンツ消費とデジタル」論(1/4 ページ)

» 2011年05月25日 10時00分 公開
[遠藤 諭,アスキー総合研究所]
アスキー総研

「遠藤諭の『コンテンツ消費とデジタル』論」とは?

 アスキー総合研究所所長の遠藤諭氏が、コンテンツ消費とデジタルについてお届けします。本やディスクなど、中身とパッケージが不可分の時代と異なり、ネット時代にはコンテンツは物理的な重さを持たない「0(ゼロ)グラム」なのです。

 本記事は、アスキー総合研究所の所長コラム「0(ゼロ)グラムへようこそ」にて2010年01月05日に掲載されたものです(データなどは掲載時の数値)。遠藤氏の最新コラムはアスキー総合研究所で読むことができます。


 知床半島を海上から見て回る船に乗ったことのある人はご存じだと思う。カモメたちが甲板に立つ観光客の手の届くところまでやってきて、競うようにカルビーの「かっぱえびせん」をくわえていく。その間、船はエンジンをゴンゴン鳴らして水面を強引に引き裂きながら前に進むが、カモメは、風に乗ったグライダーのようですらある。羽ばたきもするが、オホーツク海の強い風と重力のバランスを、上手くとっている。

 大自然のまっただ中で暮らす鳥や魚はもちろんだが、地上生物でさえ自然法則を十二分に生かしている。『運動会で1番になる方法』という本を企画したときに著者の深代千之さんに教えてもらったのは、「カンガルーは速く走っているときのほうが疲れない」というお話だった。ゆっくり動くときは筋肉を使うが、速く走るときは「靱」をバネにゴムボールのように跳ねていくので、疲れないのだ。

 それに比べると、人間が使う機械というのは、なんとも効率の悪いことが多い。車輪の発明によって、前に動くことに関しては効率的にはなったが、これを動かす部分の効率がいまひとつだ(ガソリンエンジンしかり、電気自動車しかり)。人間の創造物で、自然のエネルギーを上手く使っているといえば、風車、帆船などが思い浮かぶが、動物たちのエネルギー効率には遠く及ばないのではないか?

Twitterをドライブしているのは人が生み出す「ノイズ」

 さて、カモメが空を飛ぶとか、カンガルーが走るとかは物理的な運動エネルギーの話だが、実は動物は、脳の活動についてもエネルギー効率がいいらしい。

 しばしば、脳は体重の数パーセントくらいの重さしかないが消費するエネルギーは30%にもなるという話を聞く。しかし一般的な人間の1日の消費エネルギーがどれくらいか、カロリー制限をしたことがある人なら何となく覚えているだろう。脳が消費するエネルギーも、1日400キロカロリー程度なのだそうだ。これは電球でいうと、トイレについている電球よりさらに小さい、20ワットくらい(たぶんゴルフボールくらい)の電球が使うエネルギーと同程度である。

 脳というコンピュータは、なぜそんなにエネルギー効率がよいのか? カモメが風の力や重力を自分のものにしていたように、カンガルーが靱のバネ作用を生かしていたように、脳も自然エネルギーをうまく生かしている。それは「ゆらぎ」や「ノイズ」だそうだ。つまり、ラジオで「ザザーッ」と入ってくる雑音とか、何らかのうねりのようなものとか、なめらかな表面に落ちているチリのようなものとか……。ゆらぎはともかく、少なくともノイズは、本来いらないもののように見える。人間の産業社会では、むしろ邪魔もののように扱われてきたはずだ。

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