中国が“世界の工場”でなくなる日藤田正美の時事日想(2/3 ページ)

» 2011年05月23日 08時00分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

米国回帰の動き

(写真と本文は関係ありません)

 すでに米国へ工場を回帰させた例もある。例えば建設機械のキャタピラ社は掘削機製造の一部を海外からテキサス州に移管している。家具メーカーのソーダーも米国に帰ってきた。情報システム企業のNCRはキャッシュレジスターの生産を海外からジョージア州に移した。昨年、ワムオーは中国とメキシコで生産していたフリスビーとフラフープを米国で生産するようにした。

 コンサルティング会社のBCG(ボストンコンサルティンググループ)は米国の「製造業ルネサンス」が来るとしているが、こうした見方に首をかしげる向きもいる。

 工場がすぐに戻ってくるというよりも「中国の労働コストが上昇すると、米国での生産を縮小してきた企業が、米国で一定の操業を続けることで選択肢を維持しておこうという行動に出る」とハーバード・ビジネススクールのゲーリー・ピサノ氏は言う。GM(ゼネラル・モーターズ)が5月10日に、米国内17工場で20億ドル(約1630億円)を投資して、雇用を4000人増やすと発表したことは、ピサノ氏の説を裏付ける。

 中国の賃金が爆発的に上昇しても、一部の産業では米国に戻ってくること自体が難しいとピサノ氏は言う。例えばコンシューマ・エレクトロニクスの分野では、米国には部品を供給する基地もないし、インフラもない。

 それでも自国市場に近いところで生産することにメリットを見い出す先進国の多国籍企業は増えている。多くの製品では、労賃がコストに占める割合は小さいか、小さくなりつつある。そしてサプライチェーンが長くなったり、複雑になることはリスクが高くなることだということに多くの企業が気付き始めている。原油価格が上昇すれば輸送コストも上がる。SARSのような伝染病が流行したり、地震や津波が発生したりすれば、サプライチェーンが失われる。

 さらに在庫を削減するという動機もある。米市場で売るために中国から輸入する場合、在庫は100日程度必要だ。もし米市場の近くで生産すれば、在庫は簡単に減らせるのだ。

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