“被災者はかわいそう”と思う心理吉田典史の時事日想(2/3 ページ)

» 2011年05月20日 08時00分 公開
[吉田典史,Business Media 誠]

 もう1つの事例を挙げたい。震災で両親を亡くしたり、両親が行方不明の子ども(この場合は18歳未満)がいる。厚生労働省の調査によると、5月11日現在141人いるという。どちらかの親が亡くなったり、行方不明になった遺児は数千人いると予想される。

 経営者や芸能人の中には、この子たちに「もっと支援を」と呼びかける者もいる。しかし、全国には気の毒な子はたくさんいる。都道府県には児童相談所があり、家庭に恵まれない子がいる。父親や母親などが病気や死亡、家出、離婚の事情によりわが子を家庭で養育できない場合に相談所に預ける。最近では、親の虐待によりここに来る子もいる。

 国会議員や経営者、芸能人、ボランティアはこのような子を支援しているのだろうか。例えば、プロレスラーだったアントニオ猪木さんは現役のころから児童相談所を訪れ、子どもを励ましてきた。今回は4月5日、福島県いわき市と宮城県東松島市の被災地を訪問している。

 匿名という条件付きで首都圏の児童相談所の職員が取材に答えてくれた。その理由は「答える内容が支援者に申し訳ない」からだった。私が聞いたのは昨年の暮れから今年2月にかけてブームになった、あのタイガーマスク運動だった。

 2010年12月25日、群馬県前橋市にある児童相談所で「伊達直人」の名前が記された紙と一緒にランドセルが見つかった。それ以降、全国の相談所にランドセルなどが贈られるようになった。このブームについて聞くと、こう答えた。「今は、あのような支援はない。続けばいいとは思っていたが。ただ、子どもたちは本当に喜んでいた」と答える。

 私は10数年前に3〜4つの児童相談所を取材したことがあり、そのときの子どもを思い起こした。その多くは家庭事情に恵まれず、中学校を卒業した後の進路は選択肢が少なかった。震災孤児や遺児と同じく、気の毒なのである。

「被災者がかわいそう」の心理

 「被災者がかわいそう」と言う人たちはなぜ他の恵まれない人たち、例えば犯罪被害者や児童相談所にいる子を支えようとしないのだろうか。そのあたりについて、心理学を研究する新潟青陵大学大学院教授の碓井真史(うすい・まふみ)さんに取材を試みた。

 碓井さんは、人には困っている人がいたら「助けてあげたい」という心理があると説明する。

 「この心理は人間が持つ本能、つまり、他者を愛する愛他的な行動と言える。この思いが具体的な行動に結びつくかどうかが、分岐点。今回の震災では、多くの人が被災地に駆けつけたことを考慮すると、行動につながったと考えられる。犯罪被害者や児童相談所の子どもの場合は、多くの人がかわいそうと思っていても行動につながっていないのだと思う」

 行動につなげるためにはどうすればいいのかと聞くと、こう答えた。

  「大量の情報が流れて、そこが悲惨だという状況を知ることが前提。そのうえで、人は自分が助ける必要があるだろうかと考える。ここも分岐点となる。児童相談所の子について言えば、多くの人は子どもが施設にいる以上、あえて自分が助けなくともいいだろうと感じているのではないか。犯罪被害者の場合は、新聞やテレビで時折報じられることがあっても、大量の情報が流れるわけではない。だから、状況が知られていないのではないか」

 さらに、支援をしやすい仕組みがあるかどうかも分岐点だという。例えば、被災地の社会福祉協議会や県庁、市役所、町村役場が全国に向けてボランティアを募集している。そのアナウンスが新聞やテレビ、インターネットのブログやTwitterにも流れてくる。

 それに応募すると、1カ所に集まり、皆で現地に向かうバスツアーがある。宿泊所までもが用意されている場合がある。しかも、ボランティアはがれきの処理という単純作業が多い。一方で、犯罪被害者や児童相談所には多くの人にとって支援しやすい仕組みがあるとは言い切れない。

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