なぜ若者は3年で辞めるのか?

» 2011年05月18日 08時00分 公開
[川口雅裕,INSIGHT NOW!]
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著者プロフィール

川口雅裕(かわぐち・まさひろ)

イニシアチブ・パートナーズ代表。京都大学教育学部卒業後、1988年にリクルートコスモス(現コスモスイニシア)入社。人事部門で組織人事・制度設計・労務管理・採用・教育研修などに携わったのち、経営企画室で広報(メディア対応・IR)および経営企画を担当。2003年より株式会社マングローブ取締役・関西支社長。2010年1月にイニシアチブ・パートナーズを設立。ブログ「関西の人事コンサルタントのブログ


 ライフネット生命保険が先ごろ発表した「新人に関する調査」の結果は、なかなか興味深いものがありました。20代から40代の職業を持つ人に、「自身の新人時代は、楽しかったか?」と質問をしたところ、20代は34.7%、30代は41.0%、40代は52.1%が「楽しかった」と答えたそうです。

 逆に「苦しかった」と回答したのは、20代は46.7%、30代は38.9%、40代は27.8%であったということです。「3年以内に35%」と言われるように、新規採用者が早いうちに退職してしまう割合が、どんどん上がっているわけですが、これが裏付けられるようなデータと言えます。

2つの見方

 このデータは、2つの見方が可能です。1つは、若い人たちに甘やかされてきた人が増えている、あるいは能力が低くなってきているから、昔と同じような環境なのに「苦しい」と感じやすくなってきているのだという見方。もう1つは、新人にとってだけではなく、会社や仕事が昔に比べてどんどん楽しくなくなってきている、誰にとっても苦しくなってきている、という見方です。

 前者は「会社や組織は変わっていないのに、若者がダメになってきている」と考え、後者は「若者が早く辞めてしまうのは彼らのせいではなく、会社や組織が劣化したせいだ」と考える立場です。若手に視点を向けるか、自分たちに視点を向けるか、の違いとも言えます。

 現実には両方とも当たっている部分があるのだろうと思いますが、前者の立場をとって、若者の意識や能力の低さを問題視する人や組織が多いことは間違いありません。

 能力不足による不出来、ちょっとした失敗にすぐにめげてしまう様子などを見て、新人たちをもっと理解し、上手に会話をし、うまく指導するスキルを身につけようという努力は多くの企業でなされてきましたが、後者の立場をとって組織開発に対して正面から取り組む動きは目立ちません。会話が少なく、失敗が許されない雰囲気で、将来や夢の見えない職場にいたら、普通は居心地が悪く、苦しいと感じるのは当然だ、それは自分たちも同じだと考えて組織開発を進めるような試みは少数にとどまっています。

 後者の立場は、取りにくいからでしょう。なぜなら、自分たちも新人と同じように楽しくない、同じように苦しいのであれば、「若手と違って、自分たちは辞めることができないのだ」となりかねません。「同じような苦しさに対して、若手は自分に正直に逃げ出しているが、私たちはソロバンをはじいた上で、自分の気持ちをごまかし、紛らわすことしかできない」ということを認めなければならなくなる可能性があります。

 さらに、若者の就職難や3年以内の早期退職は、辞めたくても辞められない自分たちに問題があることが分かってしまうかもしれません。若者が就職できないのも、早期退職してしまうのも、その根っこにあるのは、幹部・管理職を含めた上の階層の平均的処遇が厚すぎること(処遇に見合う人は当然いるわけですが)、その処遇に見合わない人に辞めるだけの力や意識がないことだ、ということがはっきりとしてしまうからです。(川口雅裕)

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