「洗えるスーツ」で就活もバッチリ? コナカの戦略を読むそれゆけ! カナモリさん(2/2 ページ)

» 2011年05月18日 08時00分 公開
[金森努,GLOBIS.JP]
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洗えるスーツで就活もバッチリ?

 広告には就活生と同世代の星、石川遼をキャラクターとして起用。価格は1万8900円。商品の特徴は、洗濯機や洗剤を使わず温水シャワーをかけるだけで汚れを洗い流せ、一晩(6時間)で乾くと明記する速乾性。さらに、アイロン仕上げ不要というメンテナンスフリーさだ。

 機能的には先行している「シャワークリーンスーツ」とほぼ同等だが、セグメントは「就活生」と「一般ビジネスマン」に分けて、前者を思いきりターゲットとしている。ターゲットを明確にすることでポジショニングも明確になる。就職戦線は年々長期化している。しかし、学生の身で複数のスーツを購入するのは厳しい。かといって、面接では好印象を残したい。そこで、「6時間」と明言する速乾性が効いてくる。1着しかないスーツをきれいに洗って、翌日の面接に臨むという就活生の行動を実現できるからだ。

 ターゲットを明確にするということは、それ以外のターゲットを切り捨てることでもある。便利な洗えるスーツはオジサンも欲しがるかもしれない。しかし、あまりにも「就活」を前面に打ち出しているため、ちょっと手を出しにくくなるからだ。

 その反面、就活生のココロにはズバッと響く。スーツのラペル(下襟)のフラワーホールには、就活の「Victory(勝利)」を祈って、Vの字をかたどったバッジを付けているという。ポジショニングとして、「就職活動に勝利するスーツ」を表している。つまり、「就活Vスーツ」は、就活生に「洗って一晩で渇く速乾性で2着目がいらない」という「機能的価値」と、「就活がうまくいきそう!」と思える「情緒的価値」を提供しているのである。

 「ターゲットを狭めると売れなくなる」などという言葉をよく聞くが、「就活Vスーツ」は「3月末までに年間販売目標の8億円をすでに達成した」(4月27日日経MJ)という。ターゲットを絞って高い購入率を実現するという好例である。

 「就活Vスーツ」の戦略はコナカに勝利をもたらした。あとは、それを着用した就活生に、本当に勝利の女神がほほえむことを願ってやまない。

金森努(かなもり・つとむ)

東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道 18年。コンサルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。

共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダイヤモンド社)。「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディアへの出演多数。一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。


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