柴田文江デザインの美しきリモコン、地デジ版SPIDER PRO(4/9 ページ)

» 2011年05月17日 21時17分 公開
[林信行,エキサイトイズム]
エキサイトイズム

デザイナー柴田の関わり方

有吉 SPIDERを紹介すると、これを録画機の化け物みたいにとらえちゃう人も多いんですよね。テレビ局の人でも、これでお茶の間の視聴が1人減るのではないかと心配する人がいます。実はSPIDERは番組を見る機会も、テレビを見る人の層も広げているのですが。

柴田 そうですね。私もあまり積極的に自分からテレビ番組を見にいく方じゃないので、人から「あれ見た?」と聞かれて後から番組について知ることが多いんですね。例えばカトリーヌ・ドヌーブが「徹子の部屋」に出ていたよ、といった具合に。そうやって評判が出てから番組を見ようにも、知らない番組の録画予約なんてできないわけだし、これまでは聞いたころには手遅れでしたよね。それがSPIDERでは、話題を聞いてからその番組が見られる、これは新しいですよね。

エキサイトイズム

有吉 最初にSPIDERを思いついたときの原点はそこなんです。1週間録画できるということよりも、放送の終わった番組を話題になってから見るという方が強いんです。実はそれに関して、ちょっと堅苦しい名前ですが「番組評価互助会システム」っていう特許を12年前に出しているんです(笑)

柴田 さかのぼって聞くと、すごいですね。もっとも、私もSPIDERがそこまですごいと理解するのにはすごく時間がかりました。一般のお客さまに毎回、毎回その話をして説得するのも無理なので、どうしたらいいんだろうって考えていました。そうした結果、思い至ったのがDVDプレイヤーみたいに本体が見えちゃったらその時点でダメなんだろうなということなんです。そうなったとたんに、最初のころの私みたいに〜〜社の〜〜とはどこが違うんですか? っていう、ほかの録画機との比較の議論が出てきてしまいますよね。

 でも、これは実はサービスであって、「SPIDERである」ということ自体を売ることが大事なので、本来はモノが必要ではないんです。もっとも、そうはいっても端末としてモノは存在しないといけないから、その図面を描いたりはするんですけど……。そのころから「多分、メインはリモコンだ」って思っていました。

 本体に関しては、できれば存在しないのが一番良くって、(テレビに)ビルトインして、なくしちゃいたいくらいでした。でも、それはできないので、できるだけシンプルにして、発表会のときやそこで配るカタログでも、載せるのはリモコンだけにして本体は隠そうってお話したんです。

――あれは柴田さんの提案でしたか

柴田 実は情報端末のイメージの脱却が一番、難しいんです。モノがあったり、言葉で説明しちゃうと、必ず「〜とどこが違うの」っていう議論になっちゃいますよね。でも、例えばWOWOWとメーカー製のDVDレコーダーを比較する人はいないでしょう。だって、WOWOWはサービスなので姿がなくって、AV機器とは全然違うから。SPIDERも本当はサービスなんですよ。

有吉 まったくそのとおりです。それを分かっている人達には、よく何で自分たちでつくっちゃうんですか? ほかのメーカーにつくってもらわないんですか? と聞かれることがあります。私たち自身は、本心ではほかのメーカーに作ってもらってもいいという考えで、実はこれまでにも何度か話し合いをしたんですよ。ただ、今、メーカーと組んで出すとなると、製品のコンセプトを最後までキープして製品化することが難しいとだんだん分かってきたんです。だから、それならいっそ自分たちでつくってしまおうということになったわけです。

柴田 やっぱり、SPIDERの本質はカタチのあるプロダクトではなくって、テレビの概念を変えようというサービスなんですよね。でも、最初に有吉さんが来て、仕事を依頼された時点では、「まずは本体というモノがあって、それをデザインしてほしい」という姿勢が前面に見えたんですよ。なので、「デザインっていうのはスタイリングだけじゃないですよ」って話をさせていただきました。

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