震災で紙おむつの仕様を変更――ユニチャーム、供給不足時代への対応(1/2 ページ)

» 2011年05月17日 08時00分 公開
[中ノ森清訓,INSIGHT NOW!]
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著者プロフィール:中ノ森清訓(なかのもり・きよのり)

株式会社戦略調達社長。コスト削減・経費削減のヒントを提供する「週刊 戦略調達」、環境負荷を低減する商品・サービスの開発事例や、それを支えるサプライヤなどを紹介する「環境調達.com」を中心に、開発・調達・購買業務とそのマネジメントのあり方について情報提供している。


 東日本大震災で懸念されている原材料・部品の調達難。現在、各社は在庫をやり繰りしてしのいでいるが、その在庫が切れるこれから影響がじわりと広がることが予想される。加えて、モノが入手できなくなるのは、何も震災の影響ばかりではない。鉄鋼石、石炭、レアアース、食糧など資源、素材の高騰、価格の高止まり、供給制限など、モノあまりの時代とつい最近まで言われていたことからは信じられない事態が起こりつつある。

 足りなくなっているのは資源、素材ばかりではない。その安価な労賃から世界の工場と呼ばれていた中国だが、人件費の上昇が続いており、これまでのように安価な製造能力を大量に提供できなくなっている。

 これからは単に安くモノを入手するだけでなく、今まで容易に手に入ったものが入手できなくなるという事態にも我々は対処しなければならない。今回は、そうした対処において参考になる事例を紹介する。

紙おむつの仕様を変更

 東日本大震災の被災に対応するため、ユニ・チャームは主力商品の紙おむつ『マミーポコパンツ』の仕様を変更した。同社の発表によると、この仕様変更の原因は、原材料メーカーの被災で一部原材料の調達に支障が出たことにあったようだ。

 仕様変更の内容は、紙おむつの使用後に汚物を包んで捨てるのに使う後処理テープを省くというもの。テープの原材料となるポリプロピレンが調達しにくくなっており、商品の供給に支障を来たしているという。

 乳幼児を抱える家庭にとって、紙おむつは生活必需品。ユニ・チャームはメーカーの使命として供給責任を第一義と考え、製品仕様の変更に踏み切った。同社いわく、商品の基本機能に影響はないというが、このテープの機能を評価して購入している消費者も多かったようだ。同社としては商品の付加価値を取るか、供給責任を取るか判断に迷ったところだろう。

 このケースでもう1つ注目されるのは、この難しい意思決定が地震発生から2週間しか経っていない3月25日に発表、3月28日から実施された点だ。仕様変更には、顧客との調整のみならず、製造ラインや手順、生産管理システムの変更など、さまざまな修正が必要だ。かつ、これらの修正は変更が決まってからのことで、その前に仕様変更、供給量の調整、代替品の利用などさまざまな対応方法がそれぞれの部門の異なる目論見において考えられる中で、対応方針をまとめなければならない。それを2週間でやり切ったというのは見事である。

 今回のケースは、突発的な災害への対応という一時的なものだが、震災への対応以外でも、企業は同じような意思決定をこれから頻繁に迫られる。これからは、今までのように必要な原材料や部品、労働力が容易に安価に手に入る時代ではなくなるからだ。それを何とかするのが調達・購買の仕事という見方もあるだろうが、努力では何ともならない事実というのも存在する。そうした厳しい現実と向き合うには、時にはその現実を受け入れ、モノが手に入らないという前提に立って何ができるかを考えることも必要だ。

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