『アメトーーク』はなぜ流行る?――テレ朝に学ぶコンサル的発想(前編)「半農半X」 ビジネスコンサルタントと、農業と……(1/3 ページ)

» 2011年05月13日 08時00分 公開
[荒木亨二,Business Media 誠]
誠ブログ

 この春の新入社員が最もよく見るテレビ番組のトップはテレビ朝日の『アメトーーク』だそうだ(マイボイスコム調査)。40歳である私と同じ、私もいつも大笑いしながら見ている。私の精神レベルはその程度か……。しかし、若い人とはテレビの見方がまったく異なる。たかがバラエティ、されどバラエティ。見方を少し変えるだけで、いろんな気付きがある……。

新入社員がよく見るテレビ番組(出典:マイボイスコム)

アメトーークとは?

 「家電芸人」「華の昭和47年組芸人」「ガンダム芸人」「中学の時イケてない芸人」……。一般人ではおよそ想像つかないトンデモ企画を矢継ぎ早に投入し、“バラエティ不毛の時代”の現在において、1人気を吐くバラエティ番組が『アメトーーク』である。

 この番組の秀逸さに関しては、もはや説明は不要だろう。通常はドラマや報道などマジメ番組が受賞する「ギャラクシー賞」まで獲ってしまったように、勢いだけでなく高い完成度も認められることとなった。いったい何が視聴者を虜にしているのだろうか?

偏見を愛せよ、そこに鉱脈あり

 「家電芸人」とは、家電マニアである芸人たちが、自分の愛する家電やこだわりをひたすら熱く語る企画である。大型テレビなど消費者の関心が高い人気カテゴリーから、果ては掃除機、炊飯器といった地味な製品まで、扱う話題は広範囲に及ぶ。芸人たちが好き放題・自分勝手に、オススメ家電のメリットをアピールしていくというもの。

 視聴者にとっては彼らの豊富な知識が役立つ。芸人たちが面白おかしく紹介することにより、家電量販店でお馴染みの“分かりづらいマニアックな説明”と異なり、欲しい情報や不必要な知識がすんなり耳に入ってくる。

芸人が家電を語る……見たことのないバラエティである。

 「華の昭和47年組芸人」とは、昭和47年生まれの芸人たちが、子どものころに流行った音楽や当時のカルチャーなどを楽しく回顧するという企画である。エリマキトカゲ、おニャン子クラブ……、キーワードをヒントに当時の想い出を語り合いながら、過去の体験を共有する。もちろん笑いのプロなので、当然ながら話はどんどん脱線して思わぬ笑いを生み出すが、これが狙いである。

 「同時代」を「同年齢」で生きていないと、しっかり理解することが難しいのが“世代の会話”の特徴である。昭和37年生まれの人々には分からず、昭和57年生まれにも理解できない。昭和47年前後の同世代のみ、大笑いしたり、懐かしんだり、共感することができる。芸人たちが子どものように嬉々として語る姿、それはまるで“同窓会のようなノリ”であり、知らない人は楽しみが少ない。

内輪ウケが主眼……見たことのないバラエティである。

 「中学の時イケてない芸人」、これまたシュールなくくりである。女の子と1度も話すことがなかった、友達が1人もいなかった、ヘンなあだ名をつけられた……。異様に暗い学生時代を過ごした芸人たちばかりが集まり、自分はどれだけ悲惨であったかを自慢し、ユーモラスに傷をなめ合う企画である。

 辛い過去であり、本来なら笑いに不似合いなヘビーな話である。普通のオトナが飲み屋で語っても一銭の価値にもならないし、封印したい過去だろう。ところがそんな辛い体験の数々も、芸人たちに預けてみればとたんに“珠玉のエピソード”に生まれ変わる。何せ、彼らは笑いのプロフェッショナルなのだから。

暗い過去を楽しく語り合う……見たことのないバラエティである。

 『アメトーーク』は基本、企画が命の番組である。どこも手を付けていないテーマで勝負をしている。たまにコケるがそれまたご愛敬とばかりに、企画の斬新さにこだわるスタイルは変わらず、そのチャレンジ精神が高い関心を集めているのだ。

 偏見を愛することで、鉱脈を探り当てる。人間は偏見の塊だ。誰にも理解されない価値感、自慢できない趣味、隠しておきたい想いがあり、それらは社会性を持たない分、エッジがきいており、いわば人間の本性がたっぷり詰まっている。自分が抱く偏見と、他人に抱かれるであろう偏見、このギャップに笑いの鉱脈を見つけたのが『アメトーーク』である。

 このように書くと“企画の秀逸さ”、言うなれば発想のユニークさだけで勝負しているように思えてしまうが、人気の秘密はこれだけでは説明ができない。企画が優れていても、きちんと回すオペレーションが成立していなければ、決して成功することはない。実は、相当に緻密に練られた戦略こそ、『アメトーーク』の人気を支えている。

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