私は、2人は「死を前提として職務を遂行していた」とは言い切れないと思うが、それを裏付けるかのような報道がある。例えば、地元紙・河北新報社は次のように報じた。
「3月11日午後2時46分、宮城県南三陸町の防災対策庁舎2階にある危機管理課。町職員遠藤未希さん(24)は放送室に駆け込み、防災無線のマイクを握った。
「6メートルの津波が予想されます」「異常な潮の引き方です」「逃げてください」
防災無線が30分も続いたころ、津波は庁舎に迫りつつあった。「もう駄目だ。避難しよう」。上司の指示で遠藤さんたちは、一斉に席を離れた。
同僚は、遠藤さんが放送室から飛び出す姿を見ている。屋上へ逃げたはずだった。が、津波の後、屋上で生存が確認された10人の中に遠藤さんはいなかった。
南三陸町の住民約1万7700人のうち、半数近くが避難して命拾いした。遠藤さんは、多くの同僚とともに果たすべき職責を全うした」(4月12日)
この中で、「上司の指示で遠藤さんたちは、一斉に席を離れた」「同僚は、遠藤さんが放送室から飛び出す姿を見ている。屋上へ逃げたはずだった」に着眼した。記者は町役場の生存者からこれらを聞き取り、書いたのだろう。私もこれが実態に近いと思う。
90年代前半から後半にかけて東北、北関東、中部地方の60ほどの市町村役場を取材で訪れた。テーマは「町おこし」だったが、災害課、危機管理課などの職員に防災対策なども聞いた。そのときの記憶で言えば、「災害のときは住民のために死を覚悟して職務を遂行せよ」と教え込んでいる役場は1つもない。ほとんどが危機管理マニュアルに沿って粛々と進めることを方針としていた。
私はこのような経験があった。だから、遠藤さんはきっと強い責任感を持ち、公務員として市民を守るためにギリギリのところまで仕事をしようとしたのだろう。そして、忠実に上司の指示を守ったのではないだろうか。
それならば、上司や町長らは少なくとも次のことは明確にしていくべきではないか。それが、死んだ人へのせめてもの弔いだろう。
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