コラム
» 2011年05月11日 08時00分 UPDATE

一見、“戦略的”な人材育成の危うさについて (1/2)

あるべき人材像や必須スキルを掲げて、社員にその習得を求めるような人材育成がしばしば行われている。しかし、各々の弱みに焦点を当てた施策をとることは、組織のパフォーマンスを高めることに本当に貢献しているのだろうか。

[川口雅裕,INSIGHT NOW!]
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著者プロフィール

川口雅裕(かわぐち・まさひろ)

イニシアチブ・パートナーズ代表。京都大学教育学部卒業後、1988年にリクルートコスモス(現コスモスイニシア)入社。人事部門で組織人事・制度設計・労務管理・採用・教育研修などに携わったのち、経営企画室で広報(メディア対応・IR)および経営企画を担当。2003年より株式会社マングローブ取締役・関西支社長。2010年1月にイニシアチブ・パートナーズを設立。ブログ「関西の人事コンサルタントのブログ


 人材育成に当たって、組織として目標を掲げて(階層別・職種別に必要なスキルや人材像を定めて)、研修やマネジメントを行うのは大切なことです。思いつきで研修を実施してみたり、育成を現場の上司の考えややり方に、任せきりにしてしまったりするよりは、戦略的な人材育成であると言えます。

 ただし、そのような一見すれば戦略的な人材育成への取り組みが、組織の強化につながっているのかどうか、事業環境や顧客・市場の要請などにマッチしているのかどうか、については冷静に考える必要があります。

 人材育成も教育研修も、その言葉には「未熟な人を引き上げる」「分かっていない人、できない人に施す、授ける」といったニュアンスがあり、組織としては、内部的な弱い部分に焦点を当てた施策として位置付けられていることが多いものです。

 だから、「何年目でこのようなことを学び、昇進・昇格時には、その階層にふさわしいスキルや視点を獲得するようにうながし、職種によって一律のスキルや知識の習得を義務付ける」といったことをパッケージにしたような研修体系、底上げ型の仕組みを作りがちになるわけですが、それが本当に効果的かどうか、組織のパフォーマンスを高めていっているのかどうかという問題です。

 ドラッカーは「自らの強みに集中せよ」と言っています。その意味の1つは、「組織のメンバーが似たような強みを持っているのは、外から見れば弱みがある状態」であり、「各々が異なる強みを持っているのが、外から見れば弱みがない状態である」ということ。もう1つは、「個人も組織も、苦手や弱みを普通レベルや得意となるまで引き上げていくことはとても難しいのだから、強みをさらに伸ばすほうが効果的である」ということです。

 言い換えれば、外から見て強い組織には多様性がある(各々が異なる強みを持っている)。また、弱みを克服させるより、各々の強みを伸ばす方が(同質性を追求するより、多様性を実現する方が)容易である、ということです。

 このドラッカーの指摘とは関係なく、現在の組織・人事における重要なテーマの1つとして、「多様性」を挙げることができます。顧客の要望や組織に向けられる視点が多様化しているのだから、人材も多様化する必要があるのではないか。あるいは、社会・顧客に適合するためには変革や創造が重要で、それには多様な視点と能力を交わらせ、組み合わせることが必要ではないのか、といったテーマです。

 もちろん、ここにはさまざまな議論・主張があるわけですが、もしこれからの組織に「多様性」が求められるのだとすれば、人材育成もそのような発想に転換せねばなりません。最大公約数的なスキルを定めて、その習得を必須とするような育成方針、あるべき人材像を掲げて、全員にそのようになることを求めるマネジメントで良いのか。ひょっとすると、人材や能力を画一的・同質的にしてしまっており、社会・顧客の要望との乖離を生むことになっていないかと考えてみるべきだろうと思います。

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