私たちは仮想世界に何を求めるのか野島美保の“仮想世界”のビジネスデザイン(1/2 ページ)

» 2011年04月25日 08時00分 公開
[野島美保,Business Media 誠]

「野島美保の“仮想世界”のビジネスデザイン」とは?

ゲームは単なる娯楽という1ジャンルを超えて、今や私たちの生活全般に広がりつつある。このコラムでは、ソーシャルゲームや携帯電話のゲームアプリなど、すそ野が広がりつつあるゲームコンテンツのビジネスモデルについて、学術的な背景をもとに解説していく。


 東日本大震災に引き続き原発事故と、日本の危機的状況が続いている。このような状況になって「ゲームは平和な時代だからこそ楽しめたのだ」と実感した。なかでもオンラインゲームは、現実世界とは別の生活空間を持つ遊びであり、よく考えてみればぜいたくな遊びだ。

 3月号にはマネタイズに関する実務的な原稿を用意していたのだが、震災後に見直すと白々しく思えてしまい脱稿できなくなった。ゲームのマネタイズをこのまま研究していてよいのだろうか。仮想世界ではなく現実世界の問題解決をすべきではないだろうか。そう考えて、しばらく手が止まってしまった。

 清浄な空気と水、豊かな土壌と農作物、そして海の恵み。ただでさえ資源が少ない国土から、貴重なものが次々と奪われていくのを、ただ見ているほかなかった。

 加えて、農作物を中心に日本ブランドが崩壊し、輸出にストップがかかっている。放射能汚染とは直接的に関係のないような製品においても、抵抗感や風評被害が出ていると聞く。

 復興を進めるためには、輸出業の縮小を食い止め国力を維持しなければならない。これから強化できる日本ブランドは何だろうか。研究テーマを白紙ベースで探すつもりで考えてみたが、結局、これまで研究してきたコンテンツ産業がその有力候補に残った。特にオンラインコンテンツは、配信から決済までインターネットで済むので、そもそも放射能汚染が問題になる物理的なモノの受け渡しが生じないからである。 

 パッケージソフトのビデオゲームでは海外市場へのシフトがすでに進んできたが、オンラインコンテンツでは内需に頼る傾向が強かった。最近大きな売り上げをあげている携帯ソーシャルゲームも、ほぼ国内売上である。これからは外貨獲得のための産業として、本格的に海外市場を狙う必要がある。

 コンテンツ作りは得意だが仕組み作りが苦手な日本のために、オンラインにおけるマネタイズの仕組みを考えたい(参照記事「ニホンのゲームが“ガラパゴス”から脱出する方法」)。その方法が分かれば、優れた日本コンテンツを世界中に“有料”で広めることができる。このように思い直して、コラムを続行させていただくことにした。

仮想とは何か

 私がゲームのマネタイズを研究する理由は、インターネット時代の輸出産業の創出という経済効果だけではない。特にオンラインゲームという仮想世界を研究するようになったのは、「物理的な制限がなくなったときに人間が何を求めるのか」を知りたかったからである。

 私たちが富やモノを欲するのは、元を正せば、衣食住が不可欠な物的生命体であるからだ。休息をとる必要がなければ立派な住居は必要ない。食べる必要もなくなればどうなるだろうか。物的世界のルールがもし取り払われるのならば、私たちは何を求めるのか。

 物理的制限のない仮想世界において人間社会が築かれる様子を観察することで、現実の社会を別の角度から理解することができる。現実世界は、物理的な制限だけでなく、過去の経緯や利権といったもので複雑化している。何か問題解決をしようとしても、あらゆるしがらみが新たな現実問題を引き起こしてしまう。いったんそういったものを取り払って、人間社会についてシンプルに観察するために、仮想世界はよい場所となる。そこでは、欲や業を含めて、人間の本質をみることができるだろう。

 そもそも仮想とは、嘘や虚構であることではなく、本物と同じように感じられることを指す。日本バーチャルリアリティ学会によると、バーチャルリアリティ(仮想現実)は、「みかけや形は原物そのものではないが、本質的あるいは効果としては現実であり原物であること」と定義される。

 つまり、仮想とは人間の感性の問題である。感覚的に本物に近い効果が得られる性質を利用して、本番に対する練習や訓練に使われることが多い。例えば、医療や建設などの現場において、仮想現実の技術がシミュレーションに用いられる。

 すると、インターネットに作られる仮想世界は、現実世界のシミュレーションと見ることができる。

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