著者プロフィール:増沢隆太(ますざわ・りゅうた)
RMロンドンパートナーズ(株式会社RML慶文堂)代表取締役。東京工業大学特任教授、コミュニケーション戦略家。人事コンサルタント兼大学キャリア教官兼心理カウンセラーで、東工大大学院では「コミュニケーション演習」の授業を行っているほか、企業では人材にも「戦略性」を重視する功利主義的アクティビティを提唱している。
私が学生だった時代には聞いたことがなかった「自己分析」という言葉が、今の就活では欠かせません。
自分のキャリアや将来設計と、自己をどう一致させるか、自分自身を掘り起こすということのようなのですが……しかし私のところに個人相談やセミナーを受けに来る学生と接していると、あたかもセンター入試のような、「汎用型モデルとしての自己分析」というものがあるように思えてなりません。
「自己分析が足りないのですが、どうすれば良いですか?」と聞かれて、「『足りない』って分かるくらい分析できていれば十分じゃないの?」と答えても満足してもらえません。
私は「戦略的就活」として、その目標設定を最重要視する方針を勧めます。何のための自己分析なのか、もう一度答えを出してもらうのです。その理由が明確に述べられる学生であれば、自己分析を深めるのは意味があるでしょう。
しかし、何だか分からないけど就活塾やら就活サークルで、若手サラリーマンの講師や就職に成功した先輩、ある時は「就活のプロ」と呼ばれるベテラン就活生から指摘を受けるということはいかがなものでしょう。「フー、何だよ『就活のプロ』って? 単に就職がうまくいってないだけじゃん」と思うのですが、ネット社会の今は、そうした就活知識豊富な人間はそれなりに尊敬されたりもするのです。
まあ、異性と付き合ったことがない高校生がファミレスでドリンクバーを頼んで、「知識だけ」ある仲間から間違ったレクチャーを受けて「ホントかよ、スゲーっ」と言っているのと大してレベルが違わない気もするのですが。「もし絶対1人を選ばなきゃならないとしたら、山本梓と夏川純どっち?」みたいなハナシですね。違うかな?
もとの話に戻すと、私は「その目的も分からない、なおかつ企業から求められてもいない自己分析などは必要ない」といつも話しています。企業を選ぶ際に、何らかの基準がいることは間違いありません。しかしそれは勘とかイメージとか、好みとか、お金とか、きっかけは何でも良いのです。
何か起点となるポイントを探すためだけに努めて、最初の取っ掛かりが決まれば、今度はそれをどう実現していくか、具体化を図る。ここが何より重要なのです。
毎年毎年就活で大失敗するパターンは、「超一流・有名企業『だけ』しか受けない」学生です。私のところに来るのは、いわゆる偏差値的に一流大学・大学院と呼ばれる学生の相談が多いのですが、そうであってもやはり人気企業の壁は厚いのです。どんなに熱意があっても、それだけで恋愛が成就しないのと同様、「採用する企業にいかにポテンシャルを感じさせるか」のアピールがすべてを決すると言えるでしょう。
「自己分析ができていない」というのはオールマイティなダメ出し理由で、言う方は便利ですが、言われた方は困ってしまいます。「やりたいこと」と「できること」のギャップを埋めていく過程こそ、就職活動の中心になるのです。
自己分析の呪縛にかかっている学生には、「まず、歩きながら考えよう」ということで、とにかくどこかエントリーしてみる、履歴書を書いてみるなどのアクションをしてもらいます。その過程で起こる気付きが、実は自分という存在を顧みるには、かなり早道だと思います。
「自分探し」で世界を放浪したりできるのは、何億円も稼げるスポーツ選手とかの特権ではないでしょうか。とにかく今の時期は走りながら考えましょう。(増沢隆太)
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