記者は御用心、“ネタ”を食わせようとしている奴らに烏賀陽弘道×窪田順生の“残念な新聞”(7)(3/3 ページ)

» 2011年04月19日 08時00分 公開
[土肥義則,Business Media 誠]
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記者クラブに席を置く弊害

窪田:記者クラブに長い間、席を置いて「取材できるのが当たり前」としつけられてしまうための弊害はありますね。例えば「企画書を書いてください」と言われても、企画書とか申請書が書けない元新聞記者もいる。

烏賀陽:そのレベルでつまづいてしまうのかあ。僕が幸いだったのは、新聞記者のあと『AERA』で10年も雑誌記者をしたこと。記者クラブにも入れてくれないような傍流ですから。その「傍流期間」がものすごく効いている。

 記者クラブ時代の「自分は王様だ」といった感覚を、そのときに忘れることができたんですよ。もし雑誌記者をしていなければ、僕も「企画書を書いてください」と言われれば激高していたかもしれない(笑)。

窪田:週刊誌で記者をしていると、取材相手から嫌な顔をされるのは日常茶飯事(笑)。水かけられたり、包丁振り回されて凄まれたり……僕はまず週刊誌記者を始めて、その後に朝日新聞の記者になった。そのとき「全国紙の記者ってすごくちやほやされるんだなあ」と感じましたね。

 烏賀陽さんと違って、僕の場合は逆のキャリアを積んできました。しかし全国紙で長い間、記者をしてから週刊誌になったら、「同じ記者なのに、この扱いは何だ!?」と感じていたかもしれない。

烏賀陽:記者というのは「読者の代わりに、僕が聞いて報告します」という「知る権利のエージェント」ようなの存在にすぎません。それなのに全国紙の記者は給料が高い。いや、朝日、読売、日経は……というべきかな(笑)。記者クラブにいれば殿様扱い。取材にはハイヤーで出かける。そりゃ「おれは読者の代理」だって言っても無理がある。

 記者は「なぜ役人が情報を提供してくれるのか」という基本的なことを考えないといけない。例えば「○○新聞さんにだけ、教えますから」と言ってきたときには、その裏に潜む彼らの利益を考えなければいけない。記者クラブにいる記者は情報を待っているだけではダメで、自分からネタを取ってこないといけないんですよ。

 記者というのは興味があることを自らが取材し、記事にしなければいけない。しかし記者クラブや全国紙で長年慣れてしまうと「どうぞ自由に取材してください」と言われても、足がすくむ記者が多いんですよ。

窪田:フリーのジャーナリストはまず企画を考えなければいけない。「このテーマが面白い」「今の世の中はこのテーマが必要とされている」と。しかし記者クラブにいると、企画構成力が養われにくいかもしれません。

烏賀陽:そうでしょうね。

窪田:若いときには企画構成力を磨かなければいけないのに、記者クラブにいるためにその力を磨くことができない。もちろん上司から「企画ものやれ」と言われることはあると思いますが、日々のルーティンワークに時間を奪われてしまうことが問題ですね。

 →続く

2人のプロフィール

烏賀陽弘道(うがや・ひろみち)

1963年、京都市生まれ。1986年に京都大学経済学部を卒業し、朝日新聞社記者になる。三重県津支局、愛知県岡崎支局、名古屋本社社会部を経て、1991年から2001年まで『アエラ』編集部記者。 1992年にコロンビア大学修士課程に自費留学し、国際安全保障論(核戦略)で修士課程を修了。1998年から1999年までニューヨークに駐在。 2003年に退社しフリーランス。著書に『「朝日」ともあろうものが。 』(河出文庫)、『Jポップとは何か―巨大化する音楽産業 』(岩波新書)などがある。

窪田順生(くぼた・まさき)

1974年生まれ、学習院大学文学部卒業。在学中から、テレビ情報番組の制作に携わり、フライデー、朝日新聞、実話紙などを経て、現在はノンフィクションライターとして活躍するほか、企業の報道対策アドバイザーも務める。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。著書に『スピンドクター “モミ消しのプロ”が駆使する「情報操作」の技術 』(講談社α文庫)などがある。


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