太陽エネルギーで世界一周飛行を目指す、夢のソーラーインパルス・プロジェクト(前編)秋本俊二の“飛行機と空と旅”の話(3/5 ページ)

» 2011年04月15日 08時00分 公開
[秋本俊二,Business Media 誠]

2010年からテストは新フェーズへ

 そんな2人の下に75人の有能なエンジニアや気象専門家らが集まり、6年間におよぶ緻密な計算と飛行のシミュレーションを経て、プロトタイプ機“HB-SIA”が完成した。骨格には、カーボンファイバーとハニカム構造のコンポジット素材が使用されている。1万2000個のソラーパネルで吸収した太陽エネルギーは、4つのモーターに最大10馬力の電力として供給される。また昼間の飛行で充電したエネルギーは400キロのリチウム・ポリマー電池に蓄積し、その蓄積された電力で夜間でもフライトが可能になる。推進システム全体の効率を最大限に高めた結果、スクーター並みの馬力で飛ぶことが実現した。

飛行機と空と旅 飛行のシミュレーションを入念に繰り返すスタッフたち

 プロジェクトの総費用7000万ユーロ(約86億円)は、政府などの公的援助にいっさい頼らず、すべて民間企業の基金でまかなっている。スイスの腕時計の名門オメガやドイツ銀行、ソルベイの主要パートナー3社ほか、協力企業として名を連ねるのは現在約70社だ。2010年にはバイエルマテリアルサイエンスが、そして2011年3月には世界的なエレベーターメーカーのシンドラーがオフィシャルパートナーに加わった。

飛行機と空と旅 2009年12月にプロトタイプ機“HB-SIA”による最初のテスト飛行に成功

 さて、2009年12月の初フライトでは地上からわずか数メートル浮上しただけだったが、テストは2010年春から新しいフェーズに入っている。まずはプロジェクトの拠点があるチューリッヒの飛行場周辺で高度を1000メートルまで上げてのフライトを実施。次の段階では、あらかじめ充電した状態で離陸したそれまでの飛行から一歩前進し、太陽の光をうけて飛ぶ文字通りの“ソーラープレーン飛行”にチャレンジした。その後、太陽エネルギーだけに頼る飛行の時間を段階的に延ばし、2010年夏には昼夜を問わずに飛ぶ“24時間連続飛行”を達成する──そんな計画でプロジェクトは進められてきた。

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