その“善意”が命を奪うかもしれない……SNSの隠れた凶暴性相場英雄の時事日想(3/3 ページ)

» 2011年04月14日 08時00分 公開
[相場英雄Business Media 誠]
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現場捜査員の苦悶

 一連の「ツイート」で筆者が気に掛かったのが、投稿が「善意」で行われ、「拡散」した点だ。警察が捜査を開始した一方で、報道協定の存在や誘拐捜査がどれほど慎重に行われているか全く知らない向きが多数存在した。このうち何割かの人が純粋な気持ちで「なんとかしてあげたい」とツイートしたのだと筆者は想像する。

 県警捜査員にしても、聞き込みの過程がツイートされ、これが猛烈な速度で拡散されるとは予想だにしなかったはずだ。一連の出来事で警察関係者は震え上がったはず。報道協定のシバリが効かない、人質の生命を危険にさらしかねない“凶暴”な性格を内包したメディアが現れたのだ。

 昨年、筆者は営利誘拐とバスジャック事件が同時進行する小説『追尾』(小学館文庫)を刊行した。取材段階で、誘拐事件に関わった捜査員たちに取材した。強盗や殺人、詐欺事件と違い、誘拐事件は現在進行形で犯行が進む。このため、犯人側に捜査情報が漏れないように神経を尖(とが)らすと強調された。筆者が著作の参考としたノンフィクション『警視庁捜査一課特殊班』(毛利文彦著・角川文庫)にはこんな一節がある。

 『一一〇番通報は警視庁の通信指令本部につながり(中略)警察官の無線端末に伝えられる(中略)「身代金誘拐の疑いがある行方不明事案」だけは例外で、無線では流されず、特殊班の直通番号と所轄署の直通電話で直接伝えられる』

 傍受されにくい警察無線でさえも犯人に盗聴されてはならないという配慮からだ。今般の事例について、誘拐事件経験を持つ捜査関係者に尋ねたところ、「(誘拐)対策マニュアル更改は確実」との言葉が漏れてきた。

 「捜査情報をツイートしないでください」と警察が要請をかけても、情報を伝えることの危うさを知らなければ、拡散することに歯止めをかけることはできない。今後、凶悪な誘拐や立てこもり事件が発生した際、人質の生命を救出する捜査員の手足が縛られてしまうと懸念するのは筆者だけではないはず。

 Twitterなどで利用者自身が情報発信源となり得ることが可能となった現在、誘拐・立てこもり事件から、無事に被害者を救出しようとする捜査員の努力を無にするような情報の投稿、行動は厳に慎むべきだ。

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