放射性物質はどのように拡散するのか――情報開示に消極的な気象庁松田雅央の時事日想(2/3 ページ)

» 2011年04月12日 08時00分 公開
[松田雅央,Business Media 誠]

松田:シミュレーションは独自のデータから作成しているのですか? それとも日本が発表するデータを利用しているのですか?

課長:我々はインターネットでも公開されている気象データを使用しており、福島第1原発の特別な情報を使っているわけではありません。各国の気象局は日頃から気象情報を発信し互いに情報を共有しているので、その情報を用いて毎日2回シミュレーションを更新しています。

ドイツ気象局の放射性物質拡散シミュレーション。4月8日12時を基点として、10日12時の時点(左)と11日12時の時点(右)のシミュレーション結果(出典:Deutschen Wetterdienstes)

シミュレーションの見方

(1)ある時点(上の図ならば4月8日12時)で福島第1原発から放射性物質が大気中に放出されたとする。ただし、放射性物質の種類、量、状態(粒子の大きさなど)、放出の条件(蒸気と一緒か爆発かなど)を設定しているわけではない。

(2)予想される気象条件により、放射性物質がどのように拡散していくかをシミュレーションし、濃度を6色に分けている。色はあくまで相対的なもので具体的な濃度ではない。

(3)図には以下のような重要注意事項が併記されている。「大気中の粒子の実測値はシミュレーションに反映されていません。また、放出される放射性物質の量も設定していません。原発から放出された放射性物質が気象条件によってどのように薄まるかを示しているだけです」


あくまで参考資料

松田:重要注意事項は承知していますが、例えば日本にいる人が「明日は自分が住んでいる地方に風が吹き、濃い放射性物質が来そうだから不要な外出は避けよう」といった形で利用することは妥当でしょうか?

課長:シミュレーションは概念的な拡散の様子です。放出される放射線の量が、例えば1ベクレルなのか1000ベクレルなのかも不明ですし、あくまで拡散の仕方を予想したものです。住んでいる地域に来る放射性物質の具体的情報に関しては、気象庁をはじめとした日本の現地情報をご利用ください。

 これは福島第1原発事故のために準備したシミュレーションプログラムではなく、3〜4日後を想定した通常の気象予測の1つです。

松田:日本の気象庁は、一般公開を前提としたシュミレーションは発表していません(参照リンク)。その理由は「仮定に基づくものであって、実際に観測された放射線量などは反映されていません」「極めて粗い分解能で行われているものであり、このため、この結果は国内の対策には参考になりません。」というものです。この点について、どう思われますか?

課長:気象庁の活動については、コメントする立場にはありません。

 我々が公表しているシミュレーションに関して言えば、降雨予想と同じで100%正しいモデルというわけではありません。(気象庁の注意事項にある「不確かさ」に関して言えば)そもそも理論的に完全な気象予測はあり得ません。

松田:もし、ドイツ国内で福島第1原発と同様の事故が起きたら、同じようにシミュレーションを公開しますか?

課長:もちろんです。それが我々の義務ですから。ドイツはチェルノブイリ原発事故の際に「情報の混乱」を経験しました。その教訓を生かし、市民の知る権利を守るため情報公開システムの改善に取り組みました。

 そもそも気象情報は一般公開されているものなので、(設備とプログラムさえあれば)誰でも同じようなシミュレーションが可能です。秘密の情報でもありませんし、「シミュレーションを公開しない理由」は特にありません。

日本気象庁がIAEAの指定する放出条件に基づいて放射性物質の拡散を計算した資料(参照リンク、PDF) 。4月6日16時30分に発表された情報。6日を基点として9日の拡散状況をシミュレーションしたもの。気象庁がIAEA提出用に作成した資料で、一般公開を前提として作成されたものではない。同種資料は3月11日から継続して作成されていたが、4月4日に政府から指摘されるまで一般には公表されていなかった

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