――「ピエール・エルメ・パリ」を象徴するアイテムの1つでもあるマカロンは今や日本でも定番の人気スイーツで、あらゆるパティスリーがそれぞれのマカロンを提案しています。レシピは百者百様ですが、サイズ、風味など、エルメさんにとって「パーフェクトなマカロンの条件」とは何ですか?
そのご質問にお答えするには、その歴史についても少し言及しなくてはならないかもしれませんが……。まだ私が修行中だった当時“マカロン”といえば、2つのコック(メレンゲ生地)の間に、コックを繋げるためにクリームを少量塗っている程度の素朴なお菓子でした。そのころ、私自身はこのお菓子がただ甘いだけで味気ない印象が強く、正直あまり好きではなかったのです。
ある時、マカロンを美味しく発展させるのは、コックというよりもまず中のクリームにもっと焦点を当てるべきなのだということに気付き、風味そのものも存在感のあるクリームをある程度のボリュームで入れるというスタイルに行き着いたのです。ですから、「ピエール・エルメ・パリ」のマカロンはほかのパティスリーよりもクリームがしっかり存在感があると感じられるかもしれません。
――エルメさんはパティシエがアーティストとして脚光を浴びるようになった時代のパイオニアですが、過去10数年間、めくるめく変化・発展しゆくスイーツの世界を、ご自身ではどう思われますか?
そうですね。元来パティシエは一般的には「職人」というイメージが強かったですし、実際にとても職人的な仕事だといえます。確かに“創作性”という観点でいえば、過去10数年の間にパティシエが「職人からアーティストになった」というのは事実かもしれません。アイデアや感覚が形になるわけですから、クリエイターとしての要素が強まってくるのも当然です。
先ほどご質問の中で私のことを“パイオニア”と表現されましたが、私が自身の仕事を通じてパティスリー業界の発展やパティシエのステイタスを職人からアーティストへと引き上げることに貢献できたのであれば、それは大変嬉しいですし、喜ばしいことです。
ただその一方で、パティシエのアーティスト指向が強まり過ぎることには懸念を覚えます。味覚や創作のセンスはやはりその人が持って生まれた才能やセンスによるものですから、誰もがアーティストになれるわけではありません。職人的な考えや基本的な美味しさの追求を無視してただ奇をてらっただけの提案をするパティシエも増えてしまったことは事実です。
とはいえ、1つの社会現象として捉えれば、社会現象といえるほどの大きな発展があったことは喜ばしいですし、社会現象には必ず良い側面と悪い側面が両方存在するわけですから、“二極化”は当然なことなのかもしれません。
――昨秋ソフトオープンされた話題のホテル「ロワイヤル・モンソー」についてうかがいます。同ホテルでは、すべてのレストランで「ピエール・エルメ・パリ」のさまざまなスイーツが堪能できるという、大変エキサイティングなコンセプトが注目されていますが、どのような経緯からこのプロジェクトはスタートしたのでしょうか?
「ピエール・エルメ・パリ」の“味覚・感性・歓喜の世界”を主役の1つとして展開するこのホテルのコンセプトは、過去にまったく例のない挑戦だと確信しています。私自身にとっても大変な冒険ですが、この話をオファーしてくれた同ホテル代表のアレキサンドル・アラール氏や、総支配人のシルヴァン・エルコリ氏と旧知の仲だったことから、ぜひこの話を実現したいと思い、3年前にプロジェクトが立ち上がった段階から全面的に関わらせてもらいました。
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